環節 20210214



※本編には存在しない、レオリオのキャンパスライフを満喫する謎時空です


『来週はいよいよバレンタインデーですね。明日は百貨店の特設会場より中継の予定です。お楽しみに!』
 俺はテレビを見て愕然とした。こ、この世界にもこの様な悪しき習慣が蔓延っているとは……!!!!!
「おいメイよ、そんな険しい顔をして、どうしたっていうんだ」
 隣のレオリオが不審そうにそう聞いてきた。
「好感度を可視化する巨悪の陰謀についてちょっと……」
「なんだそりゃ。メシ食い終わったんならそろそろ出るか」
「あっ、うん。それもそうだな」
 ここは学生街の小さな食堂。安い旨い量が多い、の三拍子揃った、はらぺこボーイズにはうってつけの店で、毎週水曜日は二人でこの店で昼食を摂るのが約束事になっている。
 食器を下げ、店を出る。この国の二月も日本と同じで寒い時期だが、それほどでもないのが救いだ。
 レオリオは午後も大学で講義がある。猛勉強の末に入った医学部で、なんとか上手くやっているらしい。朝から夕方までほとんど何かしらの授業で埋まっており、毎日重い荷物を持って通学している。
 俺は何をしているかというと、医学部のキャンパスで清掃員をやっている。
 ……。
 そう、完全にハンターライセンスの持ち腐れである。
 文字が読めない奴でもできる仕事で、レオリオにある程度近い場所で……というと、こういうことになってしまったのだ。背に腹はかえられぬ、というやつだ。
 力持ちという事で、紙ゴミや粗大ゴミなどの、まとめて出る重たいものをキャンパス内から集めてまわるのが主な仕事だ。
「レオリオ、今日は遠い方のスーパーが安売りの日だから、西門で待ち合わせな」
「おう、あとでな」
 昼食を食べ終えて解散。レオリオは講義室、俺はゴミ集積所へ向かう。
 これが今の俺達の日常である。


+--+--+--+


 それから数日後。

「あの、これ、受け取って下さい!」
 本日はバレンタインデー。朝からこれで3件目である。まだ昼休みにもなってない。
「あー、いや。俺、そういうのは受け取らないことにしてるんで、すみません」
 こちとら清掃員だぞ。仕事中に食べ物を渡そうとするんじゃないよ。
 俺が受け取りを拒否すると、綺麗な小包みを差し出してきた女の子たちは一方的に傷付いた顔をして去っていく。これが朝から三件目なのである。こっちが傷付くわ……。
 最近すっかり自分がイケメンに転生?したことを忘れていたのだが、日本式バレンタインデーのおかげで思い出させられた。いや、そうは言っても話した事もない清掃員だぞ? 巷の女子大生は何を考えているのか全く分からない。
 元々非モテだった過去の自分からすると羨ましい限りだが、冷静に考えて話した事もない名前を知らぬ女性からの突然のチョコは、びっくりする上に、正直に言うと結構怖い。
 今日だけ男子トイレ掃除とかにしてもらいたいくらいだ。
 そんなこんなで何度も足止めをされてしまう所為で、仕事の進捗が悪い。それで昼食の弁当を買い損ねてしまった……。売店の弁当は量もあって安いから人気なんだよなぁ。悲しく思いつつ、まだ残っているサンドイッチとサラダを買う。いつもなら割高な気がして買わないやつだ。
 人気のない場所を探して、そこで昼食を食べる。ご飯を邪魔されたくない。
 作戦は功を奏したのか、誰もやって来なかった。
 午後からは何件お断りを伝えたのか数えるのをやめた。今日の担当である古紙と瓶缶ペットボトルを集めて荷車に積み上げて、ゴロゴロと荷車を曳いてまわる男にチョコを渡そうとするんじゃない。やめなさい。



「それで、全部断ったっていうのか?! お前さん、気は確かか?!」
 家に帰って夕食後、レオリオに今日が如何に大変だったかを話そうとして失敗した。
「いや、だって……レオリオも考えてみてくれよ、名前を知らない、喋った事もない、それどころか顔を見た覚えも無い人なんだよ? やじゃん」
「いやそれでも可愛い子の一人や二人と連絡先の交換くらいはだなぁ」
「アとクとンしか文字がわからないやつがどうやって連絡先を交換するんだよ」
 思い返せば、みんな小綺麗な格好だった気がするが、可愛かったかどうかは全く思い出せない。興味がなければこんなもん……だと思うのだが。
「そーいうレオリオ君はいくつ貰ってきたんですか」
「喧嘩売ってんのか! 同じ実験グループの女子からの義理チョコ二つだよ!」
「いやいやレオリオさん、ちゃんと知り合いからチョコ貰ってるじゃないですか。出会った頃に言ったでしょ、なんだかんだでチョコ貰えるタイプだって!」
「問題は全員彼氏持ちで義理チョコが確定してるって事だよ!」
 ありがたいんだがそうじゃない、などとこぼすレオリオ。トドメでも刺しておくか。俺はおもむろに立ち上がり、台所の戸棚から目的のものを取り出す。
「じゃあはい、これ、三つ目ね」
 俺はそう言って青い包みをレオリオに渡した。
 そう、チョコレートだ。
「なっ……メイ? 俺に?」
「そうだよ。まぁ義理チョコというよりお礼チョコなんだけど。
 文字の読めない俺をここまで連れてきてくれてありがとうな、レオリオ」
「お……おう」
 受け取ったレオリオはそれきり黙って、神妙な顔で包みを検分している。
 あれ? こんな重い空気になるつもりはなかったんですが?
「真面目か!」
 我慢出来ずにツッコミを入れてしまった。
「それコンビニで一番高かったやつなんだよ、俺にも少し食べさせろよ」
「あ! メイ、さてはそれが狙いか! いいぜ、食った分お返しから引いとくからよ」
「わかったわかった、それで良いから早く食べようぜ。14日が終わっちゃうだろ」
 変な空気回避成功! 他意は無い!




「俺はよ、謝礼が欲しくてお前を助けたわけじゃないんだよ。変なこと考えるなよな」
「口実にくらいは使わせろよ、俺だってチョコ食いたいんだからさ」

ハッピー友情エンド!