環覚 019



 ヒソカに切り刻まれた服の代わりを買いに天空闘技場の外へと繰り出した俺たち。見たらわかる程度に質の良い、多分ハイブランドの小洒落たファッションで身を包んだヒソカと、ややくたびれている安物のスーツを着た俺。なんていうか、落差が…………いや、俺もイケメンなんだった、めげずに堂々としておいた方がいい気がする。
 天空闘技場周辺はやや治安の悪そうな安酒場や細々とした宿場が多かったが、大通りを渡ると、普通の繁華街というか、大きめのファッションブランドのショップなどがある都市部であった。角の一等地っぽいところにあるデカい建物へ入る。ここは、いわゆる百貨店のようだ。
 俺からすると少し古風な感じがするが、今は1999年ということを考えると、最先端かもしれない。
 女性物の小物が並ぶ区画の奥にある、上へ登るエスカレーターに乗り込む。
「どれくらい上がるんですか?」
「紳士服は四階かな。先にカフェで朝食……いや、早い昼食かな? とにかく食事にしよう。キミは空腹だろ?」
「わーい。めっちゃ腹減ってます」
 食事するレストランはまだ空いてないが、喫茶店ならもうランチが食べられそうな頃合いだ。
 看板にティーカップから湯気が出てる感じのロゴサインがある階で降りる。小さな入り口だが、中はまぁまぁ広い。黒を基調とした調度品でまとめられており、落ち着いた雰囲気だ。
「サンドイッチと……ピザ……ケーキ……ミルクティー……」
 欲望が口から溢れ出つつ、ウキウキしながらメニュー表を開く。
「やった! メニューに写真がついている」
「おや、僕の通訳は必要なさそうだね」
 ヒソカが拗ねたような声でそう言う。
「要らないとは言ってないでしょうが。
 写真に載ってない美味そうな肉料理があったら教えてください!」
 ヒソカは「はいはい」と呆れ声だが、まぁ気にしないでおこう。
「めっちゃくちゃお腹空いてるんですよね〜。いっぱい食べてもいいです?」
「あとで服を買う時に困らなければ、好きなだけ食べなよ」
「ウッ、そうだった……」
 今食べすぎると、ズボンのウエストがサイズ迷子になってしまう。ほどほどにしておかねば……。
 兎にも角にもまずはサンドイッチだと思っていたが、メニューをめくっていると美味そうなバーガーの写真と目が合った。うまそう。こっちだな。
「ヒソカさん、このバーガーってバリエーションありますか?」
「どれどれ……写真のはデラックスで、パティとチーズが2枚。他にパティ1枚のやつと、肉じゃなくてフィッシュフライのやつがあるみたいだね」
「美味そうすぎる。デラックスにしよ。あとケーキと飲み物かな……」
 更にぺらぺらとメニューをめくる。ケーキは店員さんのおすすめを聞いてみよう。飲み物は紅茶がいいが……アイスミルクティーかな。
「だいたい決めましたけど、ヒソカさんはどうするんですか?」
「ああ、ボクも軽くなにか食べようかな。メイがいいなら、注文しようか」
 そう言ってヒソカはサッと店員を呼びつける。
「ホットコーヒーひとつ、ホットサンド……ハムとチーズのやつを、ひとつ。それからバーガーのデラックスと……他に何が要るんだい?」
「アイスミルクティーと……あと、ケーキってオススメあります?」
「当店の一押しはショコラロールケーキです。今月のフルーツタルトはオレンジになります」
「じゃあ両方とも一つずつ」
 もちろん、どちらも俺の分だ。
「ヒソカさんもケーキ要ります?」
「いや、ボクはいいかな。じゃあ、以上で」
 店員は注文を復唱して確認し、下がっていった。
「……ヒソカさんの、腕。怪我したって言ってましたけど、調子はどうですか? 昨日の今日でどうと言われても困るかもしれないですけど」
 なんか平然と生活しすぎていない? いくら縫い合わせたといってもさぁ。気になりすぎてわざわざ聞いてしまった。
「昨日じゃなくて一昨日だよ。調子は別に、なんとも無いかな」
「え? 一昨日? 昨日……? 試合は昨日の日曜で、今日は月曜では?」
「今日は四月十三日、火曜日だよ」
「え? どういうことですか?」
「どういうことと訊かれても、ただキミが昨日は一日中眠ったままだったってだけだよ」
 え、えぇ〜〜。さらっとすげーこと言う……。やけに腹減ってるとは思ったけどさぁ……。
「マジで命が危なかったのでは……」
「目が覚めて良かったじゃないか。纏も出来てるし」
「てん? ああ、なんかこう……身に纏うやつ?ですよね。出来てるんですか」
「もともとうっすらと纏っていたよ。今思えば指輪の影響だった可能性があるけど。今はもう少しマシに見えるかな」
 なるほどなぁ。元々の体の持ち主は念の使い手だったのかもしれないな。前任者がいるという前提の話だが、精神と声音以外の全てが元の俺とは違う以上、誰かの体に入れられたと考えるのが妥当だと思う。
「それよりメイ、ボクが腕を千切るって知ってたのかい? 本当に両腕を千切られてびっくりしたよ」
「え? 本当に千切ったんですか? 怪我したとは聞きましたけど、千切ったなんて聞いてないですよ!」
 やっべ。誤魔化しとこ。
「あの、腕、マジで大丈夫なんですか? 普通は千切って無事なわけないんですけど……」
「奇術師に不可能は無い♦
 と言いたいところだけど、まぁ、縫うのが得意な知り合いがいてね。うまく縫合してもらって、この通りさ」
 そう言ってヒソカは両の掌を振るってみせる。くっついてるのは知ってるけどさ、そんなすぐくっつくモンかなぁ……。
「はぁ……まぁ、あんたそれで良いなら、俺がとやかく言うことじゃ無いですけどね……」
 ため息をついたところで、タイミングよくドリンクが届く。
 目の前を通ったコーヒーからいい香りがする。コーヒーも好きだ。
 俺は自分のアイスティーにミルクとガムシロをドバッと入れてかき混ぜる。飲む。うまい! テーレッテレー
 馬鹿なことを考えながらチビチビとミルクティーを飲んでいると、すぐにフードもやってきた。
「わー、写真で見たより迫力ある。最高。いただきまーす」
 デラックスハンバーガーにかぶりつく。香ばしいバンズ、ジューシーなパティ、隠されたピクルスの酸味、甘辛のソース、新鮮な野菜たち……。高いハンバーガーのイデアがここにある。デカくて美味い。
「最高……めっちゃ美味しいです」
「良かったね。ホットサンドもなかなか……悪くない」
 ヒソカが食べ物を褒めるなんて初めて聞いたかもしれない。食に喜びがあることは良いことだ。


続く。




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喫茶店の食事メニューってなんであんなにおいしそうなんですかね。