環来 002
これまでのあらすじ。
俺、目が覚めたらイケメン。
俺、なんか、漫画の世界にきたっぽい。
俺、お金ない。
俺、レオリオと、ハンター試験うける。
えー。俺、元の世界に帰れないの?
+--+--+--+
さっき目が覚めたばかりだが昼過ぎで、まだ店は開いているから、と俺はレオリオに連れられて、宝石店に来た。
「え、宝石店? 店員の視線が痛いんだけど」
「気にしたら負けだぞ、メイ。金がほしいだろ?」
「そうだけどさ」
「いらっしゃいませ、なにかお探しですか?」
スーツの年配の男性が寄ってきた。責任者か? これはもう、怪しまれてるってことじゃないか。失礼だなぁ。
そんなことを考えていたら肘でレオリオに小突かれて、あぁ、と口を開く。
「ここって、宝石の買取もしてくれるの?」
「えぇ、承っております」
「家からでてきたものだけど、よくわかんないから売りたいんだ」
隣でレオリオがなんか言いたそうな気配がするが、無視。俺ってこんなにスラスラ嘘吐けるんだ~。すごいな~。
「かしこまりました。奥へどうぞ」
上品な設えのへ通された。女性店員が、お茶を出してくる。座ったソファがあの部屋とは大違いで、あぁ、金かかってんだな。なんて思う。
「おー。机に置いてあるの、鑑定用の顕微鏡じゃね? すごいなー」
「メイ、どっち売るかとか決めてるのか?」
部屋をソワソワと見ていたら、レオリオがそう訊いてきた。
「ん、両方見てもらって、高い方でいいかな、と思ってるんだけど。で、現金でもらって、生活に必要なものを買いにいく。完璧」
「おー、がんばってくれ」
「何言ってるんだよ、レオリオにつれてってもらわないと店の場所も文字も分からないのに」
「文字もって……言葉も忘れて無くてよかったな」
「それだけは本当に感謝してる。たぶん、カミサマに」
「お待たせしました」
一番初めに声をかけてきた、あの男性店員が入ってきた。
「お待たせしてもうしわけありません。今日は彼女と二人でしてね。
さて、お売りしたいというものは」
白い手袋をして、男はベルベットの敷かれたトレイをテーブルに出した。ここに置けってことだな。
「えーっと、この石と、指輪」
ぽて、ぽて、とポケットから出したら、男性店員が苦笑した。すみませんねー。もともとポケットに入ってたんですー。
「では、拝見いたします」
指輪から先に手にとり、うんうんとぐるぐる見回す。
「うーん…特に宝飾されているわけでもありませんし、ちょっと当店では買取は難しいですね」
「そうですか……」
売れないと聞いて、残念のような、ほっとしたような、不思議な気分になった。
「こちらの石の方は、これは…絶妙に微妙ですね」
石を取って顕微鏡で覗いて、男性店員はそう言った。
「微妙、て、なんですか。微妙って」
「えぇ、天然石のルビーですが、大きいですが特別にというわけでもなく、表面に細かな傷がありますし、まぁ総じて絶妙に微妙ですね。いい石ではあるようですから、きちんと相場のお値段で買い取らせていただきます」
「よ、よろしくおねがいいたします…」
取り敢えず売れるんだから売ってしまって生活の糧にしなければ。俺は書類にサインをしようとして文字が解らないことを思い出し、レオリオに全部書いてもらった。
悪くない値段だった。
無理を言って現金で代金をすべて受領して分厚い封筒を手にした俺とレオリオは、男二人では居心地の悪い宝石店を後にした。
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「メイ、次は取り敢えず本屋だな」
商店通りを宝石店を背に歩き出してすぐに、レオリオが言った。
「え、文字読めないんだけど」
どうせ読めないのだから要らないだろう、と思いながら俺が答えると、
「覚えるためだよ! ずっと俺に頼る気か!」
と怒鳴り返されてしまった。
「あ、そうか。でも俺早くかばんとか着替えとか船に乗ったり試験受けたりするのに必要なものほしいんだけど」
「だめだ! 本屋だ!」
「えええええ」
俺の意見はすべて却下されて、本屋に連れ込まれてしまった。
「文字を覚えるなら児童書か」
「五十音表をレオリオが書いてくれれば良いと思うんだけど」
「紙だとすぐ破れちまうだろ? 一緒に船に乗って試験受けるんなら、少し丈夫な方がいいだろ」
「レオリオはそこまで俺のことを考えていてくれたのか…マジいい男、惚れそう」
「馬鹿なこというな!」
二人でわいわいやりながら辿り着いた児童書コーナーはこじんまりとしていて、選択肢は少なかったが目的の物はすぐに見つかった。
「これなんていいんじゃないか? 順番にいろんな言葉がかいてあるぞ」
何冊かぺらぺらとめくって、レオリオが提案してきた。
「ふむ……毎晩読み聞かせしてくれるのか?」
「なんで毎晩なんだよ! お前の保護者じゃねーよ!」
「だって、文字読めないし」
そこを忘れてもらっちゃ困るぜー。
「わかった、わかったから、そんな目で俺をみるな。本はそれで良いか?」
「やった。楽しみにしておくからな! イラストもかわいいしそれでいいよ。レオリオが選んでくれたやつだし」
了承してくれるとは思わなかった。だんだん楽しくなってきたなぁ。
それから俺達は明日からの大冒険に必要なものを買いに行った。
まずは服だ。スラックスにアイロンのあてられてないシャツという、ちょっとみすぼらしすぎる服で、ハンター試験を受けに行きたくは無い。
服屋に入ると、スーツが結構安く売っていた。試着してみるとぴったりで、体も動かしやすい。レオリオと一緒にいるなら、こういう格好のほうが無難かな、と思い、さっさと購入することにした。服はこれでOK。
カバンを見るが、レオリオのように手に持つやつは好きじゃない。いざというとき両手を使えるほうが好きだ。
ということで、メッセンジャーバッグにした。紐を伸ばせば肩掛けとしても使えるから、意外と有用そうだ。
カバンの中身は、着替えの下着、応急手当セットと酔い止めクスリ、ライター、丈夫な手袋、汎用の太めなロープ5m、あとは……武器か。レオリオは短刀を持っていたな。武器ねぇ……。うーん。
うんうん唸りながら歩いていると、レオリオが怪訝な顔で俺を見ていた。
「……なに?」
「いや、なに唸ってるのかと思っただけだ。まだなんかあんのか?」
「あー。うん。なんか武器がほしくて。でも俺、何が得意なのかわかんないんだよなー」
「メイ、今以上に荷物増やして持って歩けるのか? すでにすごい量だぞ」
そういえばそうだな。服の所為だ。
「つまりコンパクトに収納できて殺傷能力が高くて出来れば遠距離のコスパいいやつがいいってことか」
「お前は何処を目指してるんだ。そんな都合の良いものがあったら俺がほしいぜ!」
「だよなぁ。やっぱ刃物かな。弾が切れて撃てませんでしたとかしゃれにならん」
「じゃぁナイフか」
「もう少しリーチがほしいな。片手剣?っていうのかな…刃渡り50cm程度の、こう、マンガみたいな?」
手でもやもやとジェスチャーをしてみる。RPGでよく見る、盾と一緒に使うような、こう、片手剣だよ。それ以外に言いようが無い。
「あー、なるほどな。でもお前、それ扱えるのか? 相当の訓練が必要だろ?」
「それを言われるとなぁ。自分でもわからない。
だめか。素人でも使えるのにしよう。そういう刃物売ってる店につれてってくれよ」
RPGの冒険に出る前の準備の気分だ。
いろいろな店の前を通り抜けて、物々しい雰囲気の店に着く。
「すごい…なんていうか、こう、っぽい。っぽい。雰囲気が」
若干気圧され気味で俺がそういうと、レオリオも顔を強張らせていた。
「よし、入るぞ」
レオリオの掛け声とともに、店のドアを開けた。
そして手前にあった短刀の値段を見て、店を後にした。
「サバイバルナイフでも買っておけば野営も安心」
「おう、そうしとけ」
危ないのはよくないな。うんうん。
続く。
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前座がもうちょっとだけ続くんじゃ。