環来 006
「そりゃおかしいぜ。見ろよ、会場があるザバン地区は地図にもちゃんと乗ってるデカイ都市だぜ」
俺たち四人は道端に大きく掲示されている地図を見上げながら、次の目的地への手段を考えていた。
ちょっと遅れて走ってきたゴンが、一本杉の話をしたところである。
「わざわざ反対方向の山に行かなくても、ザバン直行便のバスが出てるぜ。
近道どころかヘタすりゃムダ足だぜ」
遠くに見える杉の木を見ながら、レオリオが冷静な判断を下す。
「彼のかんちがいでなはいのか?」
クラピカも同調する。常時なら、まぁこれが正解だろう。
「とりあえずオレは行ってみる。きっと何か理由があるんだよ」
ゴンはいつものまっすぐな目でそういい、レオリオの引き留めも断って、人気のない道を一本杉に向かって歩き出した。
見送ると、クラピカもゴンを追い歩き始める。
「! おい、クラピカ」
「船長の言葉…というよりも、ゴンの行動に興味があるね。
しばらく彼に付き合ってみるさ」
「けっ、意外に主体性のねー奴だな。オレは地道にバスで向かう。
じゃーな、短いつき合いだったが元気でな」
スタスタと歩き去るクラピカの後ろ姿にそう声をかけて、レオリオはバス停へ歩き出した。
「メイ、お前もゴンについていかなくていいのか?」
「ぶっちゃけついていきたいけど、俺はレオリオについていくって決めてるしなぁ」
「なんだよ、お前も主体性のねー奴だな」
「どっちについて行ってもそうなるんじゃん……」
それ以来俺たちは黙ってしまった。何かを話すのもちょっと、難しい。
俺とレオリオの間に共通の話題なんてないし、そんな気軽に話しながら待ってるような雰囲気じゃない。
バス停には昼間のこの時間は十分かそこらで次々とザバン行のバスが来るはずだが、一番近い予定の時間はバス停に着いて三分で過ぎてしまった。
何のアナウンスもなくこんなにバスが遅れるものなのか?
「………遅ーな」
レオリオが耐えかねてそう口に出すと、後ろから声が耳に入ってきた。
「おい、どーもザバン直行便のバスは一台も目的地に到着してないらしいぜ」
「やはり罠か…初受験者はバカ正直だからたいがいこれで脱落するぜ」
ピクッと顔を上げるレオリオ。そして俺を見る。
苦笑いの俺。
もう一度下を向いて考え込んでる。
「レオリオ……」
「だよなぁ! 手軽にバスで行こうなんてする奴ぁバカだよな!」
がばっとレオリオが立ち上がる。
「早く追いかけようぜ! あいつら二人きりじゃ寂しいだろ? しょーがねーなァオレ達も付き合ってやろうぜ!
ワハハハハハハ!!」
「そうだな!」
あーよかったよかった。俺はうれしくて笑いながら走っていくレオリオの後ろを追いかけた。
+--+ +--+ +--+
走って追いかけて、先行するゴンとクラピカに追いつくと、クラピカに皮肉を言われたが、同行を許可された。
それから歩いているうちに、廃墟群というか、荒廃した都市跡に着いた。
と言っても、人気がする。これが気配というものか。便利なセンサーがついてるみたいな雰囲気だ。姿を隠しているわけではないから、こんなもんなのかもしれない。
レオリオはわかってないらしく、
「あいにくオレは普通の人間なんでな」
などと強がりを言っているが。
あ、出てきた。この婆さん怖いんだよなぁ。
「ドキドキ……」
ゴクリ。三人の息をの飲む音が聞こえた。
「ドキドキ2択クイ~~~~~~~ズ!!」
おおー、大迫力!
うしろのシュコーシュコーいう人がまばらにパチパチとするもんだから、もっと盛り上げようと思って俺も拍手をした。
「イデッ」
レオリオから拳が来た。暴力反対。
わーわーやってるうちに、後ろから男がやってきた。かませ犬クンだ。
「おいおい、早くしてくれよ」
かわいそうにかませ犬クン。名前もわからずに行ってしまうのね。
憐みの視線で彼の後ろ姿を見送った。
レオリオは隣で激昂している。あ、引き返そうとしだしたぞ。
「れ、レオリオ、ちょっとま」
「レオリオ!!」
クラピカが鋭い声で制止する。俺の声に被せて。あぁ、えーっと。出番なし。
ちなみに俺に悲鳴は聞こえなかった。
「待ちな! これ以上のおしゃべりは許さないよ」
うむ。俺はこれから黙りこくって成り行きを見届けるしかない。
息子と娘の二択。どちらを助けるか? 息子? 娘? むりやり二人とも助ける?
それとも……。それとも。
老婆が五秒数え終わる。レオリオが怒りに身を任せて角材を振り下ろす。
木材が折れる、いやな音が静かな廃墟群に響き渡る。
「なぜ止める!」
「落ち着けレオリオ!!」
そう、クラピカの言う通り。俺たちはこの問題に合格したんだ。
レオリオは純粋に人が良い。ちょっと口が悪くて、やり口が荒っぽいだけで。
俺はその事をひしひしと感じながら、レオリオとクラピカのやり取りを聞いている。二人はいいコンビだ。
「バアサン……すまなかったな……」
そして非を認める素直さ。なかなかできることではない。
「何をあやまることがある。
お前みたいな奴に会いたくてやってる仕事さ。頑張っていいハンターになりな」
ゴンはまだ考えている。
「ふう~~~ダメだ!! どうしても答えがでないや!」
やっと出したゴンの結論に、レオリオとクラピカは一瞬ぽかんとして、それから笑い出した。
「何だよ、まだ考えていたのかよ。もういいんだぜ」
「え? 何で?」
「何でって、もうクイズは終わったんだぜ」
「それはわかってるよ。
──でも、もし本当に大切な二人のうち一人しか助けられない場面に出会ったら…。
どうする?」
そこで本当に考え始める。これはクイズじゃなくて、来るかもしれない未来だってことを。
だが三人とも、どちらかを必ず助けることを考えてる。
その立場になれば、ゴンは両方助けるうえで自分も助かる道をつくるだろう。
クラピカは、二人を助けて自分が死ぬ覚悟をするかもしれない。
レオリオは、苦渋の上にきっとどちらかを選ぶ気がする。
俺は? 俺は……選ぶか? ……それとも。
もう一つ選択肢がある。
なんだかその最後の選択肢をとってしまいそうで、そんな自分を想像して、怖くなってきた。
この世界では、それをとってしまいそうだ。
「おい、メイ?」
メイ。俺の偽名。まるで偽物の人生を歩んでいるような……俺が俺で無いような……だが、この名を選んだのは俺自身のはずだ。
「メイ? おい、聞いてんのか?」
「あ、あぁ、聞いてる。ごめん、ちょっと考え事してた」
「さっきの問題か?」
「まぁ、ね。でも、その場になってみないとどんな選択肢をとるかわかんないよな」
ははは、と俺はごまかして、その話を終わりにした。
さて、次の問題は……どうやってあの完璧フォーメーションに割り込むか、だ……。
続く。
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最後の選択肢。何かお判りでしょうか。
実際、どの選択肢を選ぶにしても、茨の道。
そんな時がこの話の中で来ないといいんですけどね……(未定)。