環来 007
二時間と言われたが二時間は二時間前に過ぎてしまって、日も暮れて大分経つ頃に、やっと一軒の家が見えた。
大きな木の根元だ。この場所でこの木が杉かと聞かれても、俺はちょっと答え辛い。くらいに、でかすぎてよくわからん。
やけに静かだ。誘われている。この場に立つとわかる。異常に静かなんだよ、この家。
「入るぜ」
レオリオが断りながら扉を開けて、初めて魔獣の鳴き声が聞こえる。
「キルキルキルキルキル……キーーール」
「魔獣!!!」
レオリオとクラピカはとっさに武器を取り出して構える。
俺は申し訳ないが初めから受け身の体勢をとる。
飛び出した魔獣に体当たりで吹き飛ばされ、入れ墨まみれの女性が一人連れ出されてしまった!
「助けなきゃ!」
ゴンはもう飛び出している。
「レオリオ、メイ、ケガ人を頼む!!」
クラピカがとっさに後を頼んで走り出す。
「任せとけ!!」
と答えたのはレオリオで、俺は
「気を付けろ!」
と返事しておいた。
ケガ人を任されるのはレオリオの仕事だ。
俺は飛び出た二人が投げ散らかした荷物を集め、水場がないか探した。
けがの治療には清潔な水が必要だ。
がれきのわきに扉を見つけ、押し開けると、台所だった。水が出ることを確認し、水が異変がないことを確認すると、器を探した。が、食器棚とおぼしき棚に一切の食器がない。
「おい、レオリオ、水はあるが器がない。何かないか」
「いや、いい、彼を運ぼう。メイ、起こすのを手伝ってくれ」
わかった、と返して俺はレオリオと両肩を抱える。
水でゆっくりと傷口を洗うと、沁みて痛いようだ。けがは、本物。
消毒液の類はレオリオが持ち歩いている。それらを用いて治療を行う。
浅い傷だけだ。打ち身はあるが骨折などはない。
「傷の手当は終わったぞ。奥さんは俺の仲間が必ず助けてくれる。しっかり気を持つんだ」
レオリオは親身に声を掛ける。
「二人もいるのに外ががら空きだ、少しあたりを哨戒してくる。レオリオ、何かあったら叫んでくれ」
こういう時に離れるのは死亡フラグだが、それよりも確認しておきたいことがある。
「メイ、気を付けろよ。魔獣が一匹とは限らねぇ」
「わかってる」
建物から出る前に、落ちている本を取る。自分の鞄からライターを取り出し、本に火をつける。悪いが、こうでもしないと囮がないからな。キリコの嫁さんの方が待っていたら困る。というか、気配が、屋根の上にある。迂闊に出ると背後をやられる。
火が消えないことを確認して、割れた窓から外に投げ捨てる。
気配は微動だにしない。仕方ない。心許ないがサバイバルナイフを取り出し、構える。
「出て来いよ、屋根の上で待ってるのはわかってるんだ、キリコさんよ」
入口からは出ずにそう呼ぶと、ごそりと動く気配がした。ほどなく、ばさばさと降りてきた。
「お前ら、中の奴も連れてった女もグルだな。建物の荒らされた後が、ついさっきじゃない。もう一匹が中にいたのに、一切音が聞こえてこなかった。あれだけ荒れていても飛び出ていった窓ガラス以外割れてない。食器棚に食器がない。
つまり、俺たちを待っていたな」
「よくしゃべる人間だな」
「聞いてくれてありがとよ!」
俺は一か八か、地を蹴った。そう遠くない、階段を降りたすぐそばだ。蹴って、蹴って、それからナイフを振るった。
その短絡な振りはキリコの爪ではじかれる。押されて飛ぶ。うまく階段にぶつからずに着地できた。
俺は立ち上がり、体に着いた土や汚れを払うと、キリコに向き合った。
「中の男も、連れ去った女もお前たちの仲間、同じ魔獣のキリコだな」
目の前のキリコの細い目がさらに細くなる。
「それで、どうする」
「あんたたちが、ナビゲーターってことだろ」
俺が断言してナイフを下ろすと、キリコは笑って、それから森に飛んでいった。
「……やべぇ、これでよかったんだろうか」
なんか不安だな。つーかどこ行ったんだろ。ゴンのところか?
俺はやることがなくなって、とぼとぼとレオリオのもとへ向かった。
まだ励ましてた。
「合格だ。会場まで君達4人を案内しよう」
一安心。推理力でナビゲーターであることを当てたことが気に入られたようだ。カンニングだけど、ばれなきゃいいのよこういうのは。
三人と一緒に、俺もキリコの一人に捕まって空の旅だ。
ふぁー。寝ててもいいかな……。
続く。
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昼間から歩き通しだし、もう夜だし、次の日は朝からステーキだし、あ、この日夕飯って食べたのかな。
夜通しでキリコに連れてかれたって考えてるんですが、本当はどうなんでしょうね。