環来 011



 ヒソカを見送ってからゴンとクラピカがやってくるまで、そんなに時間はかからなかった。
「あれ、メイじゃん! こんなところでなにしてんの?」
 俺を見つけてすぐにゴンが声をかけてきた。
「まて、ゴン。先頭の方を走っていた彼がなんでこんなところにいるんだ、何かあると疑った方がいい」
 クラピカは近付こうとするゴンを制止する。まー、そりゃそれが正解だろ、この湿原なら。
「クラピカの言うことも尤もだな。
 しかしあいにくだが、俺は本物だ。
 レオリオに用事があってここまで来たは良いんだが、44番さんに持って行かれてしまってね。
 二人なら追って来るだろうと思って待ってたんだ」
 ちょっと話を曲げたけどだいたいあってるからいいよな?
「そんな都合のいい話があるか」
 こんな場面で自分に都合の悪い話なんてするやつがあるかよ。とは思いつつ。
 クラピカは疑ったままだ。
「こんなところで長居してると二次試験に間に合わなくなるぞ。
 俺はゴンに連れてってもらわないと二次の会場には辿り着けないからな、こうしてゴンを待ってたんだ。
 ゴンの野性の鼻ならレオリオを追えるだろ?」
 ゴンに話を振っておこう。
メイはなんでオレ達がヒソカを追っかけてるって知ってるの?」
 そう来るか。
「ちょっとした推理だ。
 1.俺はゴンがレオリオの悲鳴を聞いて助けに走ったのを知っている。
 2.俺も諸事情によりレオリオの安否を確認しに来た。
 3.俺はヒ、44番さんに会ったが、ゴンには会ってない。
 4.44番さんが俺にゴンとクラピカが追って来ることを教えてくれた。
 5.44番さんと一緒に仲良く走って行くなんて御免被りたいので、二人を待つことにした。
 レオリオをどうやって追い掛けたのかは企業秘密だが、今の状態だとレオリオを追えない。やれるならわざわざ待たずに追っているよ。
 レオリオは俺が会った時から香水を欠かさない紳士気取りだからな、似合うから別に良いけど、ゴンの野性さならそれを追い掛けて来るだろうと考えたわけだ」
「ではこの大地が焦げて陥没しているのはなんだ? ただ拳で地面を叩き付けたとは思えない」
 クラピカが口を挟む。
「俺じゃない。着いた時には既になっていたから何かわからない。
 俺がやったのは、そのうしろに転がってる枝を投げつけたぐらいだ」
 転がっている枝を指差す。念が使える俺は俺じゃない! あの念は指輪の力だ。だからこの焦げた地面なんて知らない。ということにしておこう。
「なー、もういいだろ、早く追わないと二次試験間に合わ無くなるだろー。二人が走ってる後ろを一緒に走らせてくれるだけで良いし」
 あーまたソワソワしてきた。さっきレオリオの無事は確認しただろ指輪め、もうちょっと辛抱しろよな。
「二人の邪魔はしないよ。なんなら俺の全財産である鞄を預けたっていい。息を切らして走ってた二人には荷物が増えるのはいやだろうけどさ。
 あ! 担保としての意味であって、俺が楽したいっていう意味じゃないからな?」
 これは重要。俺は走っても息は上がっていない。荷物渡したところでどっちでも変わらないってことだ。
「そこまで言うなら信用しよう。しかし荷物は自分で持っていてくれ」
 クラピカがそう折れた。よしよし、これで二次試験へ辿り着けるぞ。
「ありがとう、恩に着るよクラピカ。
 ゴン、よろしく頼む」
「うん!」
 真っ直ぐなゴンの声はよく響くなぁ。


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 二人の後ろを黙々と走るだけのお仕事は、そんなに長くなかった。階段を走るのと比べれば、だが。
朝にステーキハウスに入り、昼の12時に二次試験開始。といえば簡単に聞こえるが、実際は12時間以上走りっぱなしだ。夜を迎えてないから変な感じだが、まっすぐ西に移動しているのかもしれない。なんにせよこんなに延々と走り続けられるっていうのは本当にすごいぜ。
 そろそろ腹減って死にそうなんだけど、と思い出し始めたところに、突如としてざわざわと人気を感じるようになった。二次試験会場だ。
 ぽっ、と開けたところに出た。目の前には倉庫のような建物。おー、これこれ。
 ゴンとクラピカはヒソカを探す。
 急にゴンが振り向いたと思うと、目があったらしい二人は一様に人山の端に目をやる。そっちにレオリオがいるようだ。
 二人に続いて後を追う。なんとなく、ヒソカに目を遣りづらかった。
「レオリオ!」
 木の根本でぐったりしているレオリオを発見して声をかける。
 クラピカが体を検分し、
「うむ。腕のキズ以外は無事のようだな」
と言い切った。顔が腫れてるだろ!
「てめ…よく顔を見ろ、顔を!」
 レオリオにも突っ込まれてる。クラピカの顔を見るからに、本当に顔の殴り跡には気付いてなかったようだな。
 ゴンがレオリオに確認しているのを聞き流しながら、俺はもう一度、二次試験会場に無事に着くことができたメンバーを見渡した。
 銀髪の少年が辺りを見回している。キルアか。
 あ、目があった。こっちこっち。ゴンを指差してやる。走って寄ってくるのが可愛いな。
「ところで、なんでみんな建物の外にいるのかな」
「中に入れないんだよ」
「キルア!」
「よ」
 幼いといっても過言ではない二人が揃うと、雰囲気がぐっとかわる。むさ苦しい男が大半を占める中でこの雰囲気は貴重だ。
「見ての通さ」
 ゴンの疑問を受けてのキルアの返事で扉の上の看板を見るが、読めない。
「レオリオ、あれなんて書いてあるんだ」
 ようやっと立ち上がったレオリオに耳打ちする。
「本日正午、二次試験スタート。だとさ」
「あと5分か……」
 時計は11:55を示している。唸り声(のような腹の音)を聞きながら、緊張した雰囲気の中、長い5分を待つ。
 さて、まずはどうやって豚を仕留めるか。
 考えあぐねても答えがでないその中で、長針と短針がカチリと重なった。
 周囲が一斉に息を飲む気配が広がる。

 ギギギギギ……

 出て来たブラハのその姿に、また周囲が一斉に肩透かしを喰らって肩を落とした。
 まぁ、そうなるよな。


続く。




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看板、あの文字量でそんな長い言葉書いてあったんかな、と疑問に思いつつ。