環来 012
衆人待望の二次試験会場の扉の向こうには、唸り声のような腹の虫の声を出す大男と、その前に座っている露出度の高いチャンネーだった。
周囲が唖然としているのがわかる。
「どお? おなかは大分すいてきた?」
どう考えてもそのファッションセンスはおかしいだろ、メンチさんよ……。
「聞いてのとおり、もーペコペコだよ」
そうだな、腹の虫の声だもんな。怖ぇよそんな音。
「そんなわけで二次試験は、料理よ!
美食ハンターのあたし達二人を満足させる食事を用意してちょうだい」
きれいなよく通る声で、メンチが高らかと宣言した。
「料理?!」
大半の者が動揺を隠せず、ざわざわとしている。
「まずはオレの指定する料理を作ってもらい」
「そこで合格した者だけが、あたしの指定する料理を作れるってわけよ」
説明は淡々と進む。この話、みんな着いて行けてるのだろうか。結構ぶっ飛んでる話だよなぁ。
「つまりあたし達二人が『おいしい』と言えば、晴れて二次試験合格!!
試験はあたし達が満腹になった時点で終了よ」
さてどうするか。これくらい簡単にこなさないと生きていけない。
「くそォ、料理なんて作ったことねーぜ」
レオリオがこぼす。
「こんな試験があるとはな」
さすがのクラピカも自信がなさそうだ。
「オレのメニューは、豚の丸焼き!! オレの大好物」
すげー、もうよだれ垂らして目がキラキラしてる。ほんとに好きなんだなぁ。
「森林公園に生息する豚なら種類は自由。
それじゃ、二次試験スタート!!」
宣言と共に、受験者が走り出す。俺も負けてられない! なんせ早いもの順だからな!
見つけるのは簡単だった。
ちょっと奥に入れば、ウヨウヨいる。
こんなのさっきまでいたかー?!
兎に角、弱点は額! 武器がサバイバルナイフしかない以上、高所からの一撃にかけるしかない。
手近な木に登る。よいしょ、と手をかけると、思っているように体が動いて俺の体を易々とあげることができた。この体、本当にどうなってるんだ?
いや、そんなことを思索してる場合じゃない。豚が来るぞ!
俺はナイフを鞄から取りだし、構える。まっすぐこっちに来た! よし、よし……今だ!
俺は木から豚へと跳び、豚の額にナイフを突き立てた!
『ブヒィィィ!』
断末魔の叫びと共に、豚は動かなくなった。はぁ……。これが、動物を食べるってことなんだな。
「南無南無。これも俺が生きるためなんだ、ゆるしてくれ」
俺は思わずそう口に出した。肉も魚も、スーパーでパックに入った状態しか触ったことがない。
さてここからどうしたものか。ゴンに教えてもらおう。それしかない。
豚を抱えてうろうろすると、ゴンはすぐに見付かった。もう焼き始めてる。レオリオもクラピカもキルアも一緒だ。
「ゴン!」
小走りで近付きながら声をかける。
「みんなも一緒だったか。よかった」
「メイ! 振り返ったら居なかったからビックリしちゃった」
「違う方向に走ったみたいでさ。直ぐに皆が見付かって良かったよ。丸焼きなんてやったことなくてさ、教えてほしくて」
抱えてきた豚を下ろす。
「あー重かった。どうやって焼くの? 血抜きは? 内蔵出したりする? 皆が焼いてる豚、まんまるなんだけどまさか」
ゴンはいい笑顔で、
「そのまま焼いてるよ!」
「お、おう………結構豪快だな。まぁいいか、俺が食べるんじゃないし」
水分は抜いた方が早く焼ける気がするけど。まぁいいか。
三人の組んでいる木組みを真似して作り、豚を吊るす。真下で火を焚けばあとは待つだけ。ライター持っててよかったね。
「もーえろよもえろーよーほのおよもーえーろー」
「なんだその変な歌」
レオリオが顔をしかめて聞いてくる。
「わかんない。火をこうやって燃やすと歌わなければならない使命感が」
この歌、ここまでしかわかんないんだけどな。
「お前の記憶を失う前って、本当にどんな生活だったんだよ」
「そりゃあ、俺が知りたいよ」
軽くかわして、豚を焼くことに専念した。
「豚の丸焼き料理審査!! 71名が通過!!」
次は寿司か…………気が重い。
何より、俺はこの試験の答えも、合格者がいないことも、知っているからな。
原作通りに進めるには落ちなきゃいけないけど、知っててとんちきな料理を作れるほど、俺は器用じゃない。
「あたしはブラハとちがってカラ党よ!! 審査もキビシクいくわよー」
その不思議な衣装センスどうにかならんかったのかな。いやー、なんていうか、ああいうふうに露出が多いのは、俺の好みじゃないって話なんだけどな。
「二次試験後半。あたしのメニューは、スシよ!!」
みんなが真剣な表情で衝撃を受けている。
答えを知っているのはハゲと俺だけだ。
中に通されて、調理台の多さに驚く。何人通すかはあらかじめ決めてたんだろうなぁ。
流し、まな板、酢飯桶。どうやらコンロは無いらしい。淡水魚は生で食べちゃいけないんじゃなかったっけ。
「それじゃスタートよ! あたしが満腹になった時点で試験は終了! その間に、何コ作ってきてもいいわよ!」
何個、って……。寿司は一貫二貫だろうが。
とりあえず俺もレオリオと一緒に調理台へ並ぶ。酢飯、ホカホカで美味しいぞ。この量、だれが作ったんだ。結構な量があるぞ……まさか、メンチ一人で作ったんじゃないだろうな。どんな重労働だよ。
「魚ァ?! お前、ここは森ん中だぜ?!」
ちびちび酢飯食べてたらレオリオが叫びだした。あ、もうそういう時間なの。
一斉に走って魚を捕りに行く一同。走るのはさすがに嫌だが、漁場がなくなるのも困る。
俺、豚で作ろうかな……キノコとか木の実とかもありだよな。うまそうじゃん。
でもたぶんメンチが求めてるものとは違う気がする。
でもサーモンの上にオニオンが乗っててそのからさっとマヨネーズがかけてあるのすきなんだよなぁ~~~。
ぼんやりレオリオの後ろをついて行ってたら、ヒソカが池にトランプ投げてるのを見てしまった。真面目に試験受けてるの面白い。
やべ、また目があった、へらへら笑っとこう。へらへら。
「おいメイ、どこ見てるんだ! こっちだ!」
「わ、ごめん、ちょっと考え事してた」
レオリオとはぐれそうになってたらしい。
「魚ってこんなみんなでドカドカしてたらつれないもんだと思うんだけどね」
「そうは言っても魚をつらなきゃスシが作れねぇじゃねーか。
こっちならまだ人が来てなさそうだぜ」
ゴン、キルア、クラピカ、レオリオ、俺、の順に人気のない水辺に到着した。
「どれぐらいつればいいのかな」
自慢の釣竿でさっそく準備を始めるゴン。
「あまり少量ではやり直しが効かないかならな、ある程度の量は必要だろう」
ゴンの疑問に答えるのはクラピカだ。試行錯誤は必要だからな。
「こいつら本当に食えるのか?」
「網はないの? マジで一匹ずつ捕まえんの?」
水辺を覗いてわーわー言ってるのはレオリオとキルア。
俺はどうしてるかっていうと、とりあえず上を脱いで網にならないか試行錯誤してるところ。
「おいメイ、服なんて結んでなにやってんだよ」
キルアが見つけてこっちによってきた。
「いやぁ、網の代わりにならないかな、と。どう?」
インナーのタンクトップの裾を結んで、拾った枝に通す。
「どうって言われても……確かに網っぽいけど」
「水が抜け無さそうだから穴をあけるかどうか今迷ってるところなんだよ。
でも穴をあけたら後で着たくないじゃん?」
「水浸しの服も着たくねーよ」
「それもそうか」
穴をあける以前に、乾かないと着れなくなるなぁ。
「ま、いいか。試してみようぜ」
キルアの肩をポンと叩いて、俺も水辺に立った。
ゴンはすでに自前の釣竿で何匹か漁果をあげているようだ。さすがだなぁ。
「おー、掬える掬える! 見ろよレオリオ!」
意外にもうまくいったため、レオリオに自慢するように持っていくと、レオリオもさっそくタンクトップで作り始めた。
各人数匹ずつ取ったところで、俺たちは意気揚々と試験場へ戻るのだった。
続く。
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旧アニメでヒソカが口にくわえて池から出てくるのはさすがにどうかと思ってました。