環来 017
「いてっ」
急激な痛みに目を覚ますと、目の前にゴンがいた。
「ほらー、寝てただけじゃん!」
「うう……なんの事ですかねゴン君」
事態が読み込めず混乱している。なんでゴンが目の前に?
「あっ、ゴメンね? キルアが死んでるんじゃないかとか言い出したから」
「なんのことだよ」
要領を得ない説明だ。ええと、ゴンがいるってことは、みんな降りてきたってことか。
「気付いたか、メイ。声をかけても肩を叩いても身動ぎしなかったんだ、君は」
「クラピカ。なるほど、それでゴンが俺の頬をつねったとかそういうことになるのかな」
「そうだ。外に集合しろとアナウンスがあった。行くぞ」
クラピカはそれだけを言うと、くるりと背を向けて歩き出した。
「えっ、ちょっと! レオリオは?」
「こっちだ、こっち」
声をかけられて左を向くと、レオリオが立っていた。
「あ、無事だった? よかったよかった」
「なんか軽くねーか俺の扱い」
「そんなことないよ。レオリオは無事だって信じてるし。ゴンやクラピカと違って無茶しなさそうだし」
俺の全幅の信頼を、レオリオはへーへーわかったわかったなどと軽く流して(お前こそ俺の扱いがテキトーすぎるだろ!)外へ向かう。俺ものその後ろをついていく。
硬いところで寝ていると、体が痛い。フカフカなところで眠りたいところだが、次が次だしなぁ……。
塔の外では、ロッポー? あ、ちがう、えっと、リッポーがドヤ顔で待っていた。隣にはいかつい顔のハゲと、箱の乗った台。
奥はすぐ海なのか。潮風が届く。そういえばここから先は船に乗るんだったっけ。
……ん? なんか合格者多くない? 気のせい?
寝起きであまり頭が働いてない。おなかもすいてきたし、まずは食糧確保かな……。
くじを引く順番が回ってきた。もうなんでもいいや、と引く。顔と名前がわかるやつはほぼ合格決定の奴だし。
数字は……135? 誰だこれ。
三兄弟の誰かが良かったな……というか本当に誰だよこれ。まじで。
そうだ、自分のプレートを外して隠しておかないと。引いたカードとプレートを、新品を買ったっていうのにだいぶ汚れてしまった鞄にしまう。
全員がくじを引き終わると、リッポーから説明が始まった。
自分のプレートが3点、引いたカードの数字のプレートが3点、その他は1点。
6点集めて生き延びて、スタート地点へ戻ってこれたらOK。
よし、ルールは覚えていた通りだ。
船へぞろぞろと移動させられる。数えてみたが、第四次試験を受けるのは、自分を入れて27人。27人? 俺を引いても26人。つまり第三次試験の合格者は死亡者1名を入れて俺以外が27人居たってことだ。
もっと切りのいい数字じゃなかったか?
うーん、漫画で何人だったかなんて覚えてないし、確かめようもない。あきらめてこの135番のプレートをどうやってゲットするのかを考えなければ……。
「御乗船の皆様、第三次試験お疲れ様でした!!」
ハンター教会のロゴの入った服を着たおねえさんがマイクでアナウンスを始める。
受験者間の空気は重苦しくて、逆におねえさんのテンションは高すぎて、船上はいたたまれない空気になっている。
ゼビル島へは二時間かかるということだった。
「レオリオ、クラピカ。二時間あるってさ、どうする?」
ゴンは勇んでどこかに行ったし、キルアはそれを追っていった。そっとしておくしかない。
「海を楽しむ気分では無いな」
「俺は少しでも休んでおくぜ。メイ、お前は酔う前に酔い止め飲んでおけよ」
「あ、そうだった。俺も二人と一緒に休むよ」
「おーおー、そうしとけ。無駄に体力を消費することは無いさ」
まぁ俺ついさっきまで寝てたんだけどね……。
レオリオの隣に腰を下ろし、錠剤を取り出して規定量の一錠を飲む。
船中で渦巻く疑心の潮流の中にいないのは、ゴン、キルア、ヒソカ、イル…えーっと、なんだったっけ。イルミ。この四人だけだ。強者の三人と標的がわかっている一人。
俺もこの状況で流石に余裕をかますわけにはいかず、なんにせよ135が誰かもわからんしお手上げである。キルアの投げる奴をうまくキャッチするくらいしかラッキーチャンスがない。つまり手が無い。
どうするか。
どうするか。
どうするか……。
どうす……。
……す…………
んごっ。
やべーあんだけ寝たのにまた寝てた。
「メイ、お前また寝てたのかよ」
俺が転寝から起きたことに気付いたらしい、隣のレオリオは呆れ声だ。
「ふ、不可抗力だ。考え事してると眠くなって……」
「気を抜きすぎだぜ。ほら、もうすぐ着きそうだぞ。島が近くなってきた」
指されてその方を見ると、島の形状がどんなものなのかわかる程度に大きくなっていた。
「本当だ。結構大きいな……」
必死に記憶を辿る。たしか、山あり、洞窟あり、川、基本的に森、開けた草原もあって……どんだけ山盛りだよ!
そうこうしているうちに、船はゆっくりととまった。長い板が船から島へ伸ばされる。
砂浜と思ってたけど、ここ崖だったのか。この島一周、断崖絶壁ってことかな。
なんにせよ……。
俺はレオリオをちらりと見た。
そう。レオリオが大変なことになるこの島で、あのシーンに介入しないようにするには。
その上俺も合格するためには。
課題が山積みすぎってことなんだよなぁ……。
「それでは第3次試験の通過時間の早い人から順に下船していただきます!」
アナウンスが始まった。
ヒソカがなんか言いたそうな顔でこっちを見てたけど、無視。今はそれどころじゃないですスミマセン。
「それでは1番の方、スタート!!」
ヒソカが船を下りていく。
一人、また一人と降りていき、九番目の俺の番になった。
「じゃ、先に行くけど。頑張れよ、みんな」
「お前の方が心配だっつーの。気を付けろよ」
レオリオに背中を押されて、俺は船から降りた。
木々に紛れている視線を感じる。わざとかっていうくらい、ねっとりと……ねっとり?
訝しんでその視線の元を見ると、ヒソカだった。
(わーお。あっちには行かねーぞ)
試験開始前と同じようにへらっと笑って手を振って、踵を返して視線とは真逆へ進むことにした。
続く。
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寝る子は育つ。違うか。
ちなみに、具体的には全部で3人多いです。