環来 018
ヒソカのねっとりとした視線を避けるように木々を抜けて歩いていくと、川にぶつかった。
できるだけ上流の方が、水を汚染される危険が少ないだろう。水の確保は重要だ。
水があれば魚もたぶん居るし。陸上生物を取って食べるにはちょっとまだ覚悟が足りない。
というか、知識が足りない。川魚は生食は危険で、よく焼いて食べないといけないな。
火種のライターは持ってきてあるから、乾いた葉や枝を集めればいい。
あまり外れに行ってもプレートが取れないかもしれない、ということに気付いて、川が少し滝になっているところで足を止めた。
あたりには誰もいなさそうだ。
失敗したかも。
いやいやいや。誰かは俺を狙っているはずだし、それが俺の目的の135番じゃなくても、ゲットできれば事態は有利に動くぞ。
二、三日様子を見れば、ヒソカが異様な殺気を出して走り出すだろうから、探しやすくなったりしないかな。
それにしても135ねぇ……知らない顔を見たらソレだと思えばいいのかな。それでいいか。
逆に、逆にだよ。だれか来たらどうしよう……来た事が判らないかもしれないし、そのまま攻撃を受けたり……、ぐっ、痛いのは嫌だ。何とかして6点集めなければ。
とにかく、地面に寝るのはよくないし、石の上は痛いし、木の上……だよな。
川からさほど離れていないあたりの木にすることにして、あたりを探索することにした。
こんなこともなければ人が来なさそうなもんだが、道がないわけではないようだ。獣道というには少しすっきりしている。事前に手入れでもしたのか。
キノコ……には手を出したくない。木の実、果実を探して見渡すと、木の高いところに実がなっていたりする。
これらが当座の食糧になりそうだ。甘いといいなぁ。
魚は二次試験の時の要領で掬うことにしよう。長い枝を探さないと。
結構広い範囲を歩き回ってあたりを把握した。
川上は山になっていて、背の高い木が多く少し暗い。少し滝になっている、拠点(予定)の辺りは山の裾野で低木や草木がメイン。木の実がなっている木は少し高い。ここから少し川下はまた木が高くなっている。川の反対側も同じような分布のようだが、向こう側に行く気はない。
木の実を試してみるために、上ってみよう。
けっこう高い。よく周りが見える、というほどでもないか。川上の木の方が高い。
近付いてわかったが、なっているのは柑橘系の果実だったようだ。オレンジと黄色の中間くらいの色で、拳よりも少し大きい。なんだろ。美味しいといいな。四つ採り、木から降りる。
一個割ってみるか。鞄からナイフを取り出し、刃を入れる。
「うわっ!」
思わず声が出た。果汁がめっちゃ垂れる。匂いは知ってるような柑橘系。なめる。そんなに甘くないけど、身の危険を感じるような気配はない。まぁまぁ美味しい。もしかしてこれグレープフルーツの仲間かな。
いい位置を陣取れたみたいだな。これで魚を食べられれば、食には困らないかも。贅沢は言えない。
さて、誰か来てくれるかな?
+--+ +--+ +--+
結局、平穏な一日だった。
魚を獲って焼いたはいいが塩も醤油もなくてどうしようかと思ったが、初めに採った果実とは違う、レモンのような実を見付け、そっちの果汁をかけて食べたら美味しくいただけました。
魚を焼いた焚火の火をつけたまま、少し離れた木に登り、どうにかこうにか寝床にすることにした。
翌朝、木の上で目が覚めて、安心した。この世界に来てから寝相が悪い前科があったため、落ちたらどうするかと心配していたのだ。
「無事に目が覚めてよかった」
小さな声でそう言ったつもりだが、遠くまで響いたんじゃないかというほど、静かだった。
直前の試験のような閉鎖空間とは違い、この開放的すぎるロケーションは、どうにも慣れないな。
大自然一人ぼっちじゃん。いや、どこかに監視係が潜んでるんだろうけど。隠れてるから居ないも同然。
期間、あと六日も残ってるんだよな……。
今日はもう少し広範囲を見回りするか。
朝食と称して昨日の柑橘類をまた食べながら、今日の予定を決めた。
FPSでもFFAの基本は縄張り見回りだからな。まさかFPSの知識が生きているうちに活用されるとは思わなかったぜ。
草むらを歩くときには蛇除けをしなければ、と魚を救う時に使った長い枝をもって出かけることにした。
時々木に登って遠くを見たり、果実をとったり、休憩したりしながら太陽が天頂をすぎるくらいまで歩き回った。ゴンはまだ竿ふってんのかな。レオリオはクラピカと会えたか? レオリオが窮地に陥ってないから指輪も反応しない。少し慣れてきたのか、離れても焦燥感は無い。んー、どうなんだろう。もしかしたらそんなに遠くないことも考えられる。ちょっと位置関係が分からない以上なんとも……ん?
近いとあんまりよくないよな、どう考えてもヒソカに会うよな。
拠点変えた方が良いか……?
まぁ、その時になったら考えよう。あの甘美ともいえる殺気を他人事として味わえるなら悪くも……、いや、何を言ってるんだ俺は。
漫画だと背景が暗かったな。ゴンの一件は今夜か? その時間帯は自由に動けるように準備しておきたい。
殺気に中てられた他の受験生を見つけてとっ捕まえる、その名も牡丹餅作戦。
うまくいかなくても残り五日もあるからな。
よし。
収穫のない縄張りの見回りは早々に切り上げることにして、拠点へ戻ることにした。
拠点の回りを円を描くように見回りを……しているつもりなので……木に登って山と川の方角を確認して、
何よりも、移動中に誰にもプレートを取られなかったという事が大事だ。
傾き始めた太陽が、若干時間的余裕がないことを示している。
飽きてきたけど仕方ないのでまた柑橘類の果実を食べて(文明的な料理が食べたい…)と不平を漏らしたところで仕方がないので荷物をまとめる。
明日はたくさん魚を採ってタンパク質の摂取に励みたい。ということで我慢しよう。ピザ食いてぇ……。いかんいかん。
つけっぱなしだったプレートを鞄に仕舞い、火の跡を蹴散らす。
長い枝は、どうしようかな。いくらでもあるけど、持ってるほうが安心か。そんなに丈夫じゃなさそうだけど、無いより安心という事で。
行くぞ。攻勢だ。
続く。
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ピザ食べたい。その次に、から揚げ食べたい。
よくわからない用語解説:
FPS = 銃を用いて殺しあうゲーム。CallOfDutyとか。
FFA = Free-for-all。チーム戦じゃなくて個人戦。6人くらいで殺しあう。殺伐。