環来 019
暗くなってきた。夜のとばりが降りると、昼間にはわかりにくい生き物の気配が感じられる。もしくは、今俺が敏感になっているからかもしれない。
ゴンは蝶を用いてヒソカを探していたが、俺にそんなもの捕まえて指針にするなんてできるはずがないので、レオリオに嵌めた指輪か、後々出すであろうヒソカの殺気くらいしか探すすべがない。まぁ今回は怪我もしないし指輪は反応しないだろうけど。ヒソカは、殺気はともかく本人には会いたくないし、ここまで来てちょっとこの計画が無謀だったような気がしてきた。どうしよう。
いや。弱気はダメだ。今日何とかしないと。
これは早いうちにハントを終わらせておかなければ、後になればなるほど難しくなる。
気合を入れなおして、思い出す。
ヒソカが動き出すときのコマはおおよそ背景が黒いから、夜だ。ええっと、初めは少し開けたところにいて、戦って、イルミが来て、それから歩き出して、それから、遠くを見てレオリオ達を見つけたんだ。
ということは、谷を挟んだ地形か? この島は山が二つある。間の低地の部分で待っているか。
おおよそ中心部でスタート地点に近いし、誰か、あわよくばターゲットに会えるかも。
目星をつけて、移動する。あたりに気配はあるが、こっちを見ている感じはしない。人じゃないようだ。木の陰に入って、息をひそめて待つ。
どれだけ待ったかよくわからないが、待ってた甲斐はあった。誰か来た。男のようだ。
レオリオでもクラピカでもヒソカでもない、えーっと……誰だ?
いや、夜だからってのこのこ歩きすぎだろ……と思うのは、こっちが隠れてて先に見つけているからか。
プレートは、見当たらない。どこかに隠してるのか。持ち歩いててくれ頼む。
俺の無遠慮の視線で何か気付いたのか、立ち止まってキョロキョロしはじめた。
この場所が気付かれないように、視線を外して待つ。通り過ぎたところを後ろから襲いたい。
歩き始めた音がした。
長い枝、よし。ナイフもよし。
行くぞ。
視線を戻して姿を確認する。相手が歩く音に合わせて、歩く。よし、後ろが取れた。
せーのっ!
枝を振りかぶって、力いっぱい頭へ叩きつけた!
「グ?!」
枝は折れたが、なんか呻いて倒れたぞ、今のうちだ!
飛びついて馬乗りになって、首にナイフの刃をつけた。
「捕まえたぞ。プレートをよこせ」
できるだけ怖そうな声を出す。
「大人しく出せば首を切り落とすのはやめてやる」
顔を見るが、本当に知らない顔だ。
「へっ、声が震えてるぜ、やれんのかよ」
あらー、こういうのやったこと無いってばれましたか。スネークのようにはいかないか。
でも引き下がるわけにはいかない。
「強気だな」
じゃぁいいよね、これ合意だよね。俺知らないからな!
切れる角度で歯を当てて、そっと引く。血が出てきた。痛そう。
「じわじわ切られるのが好みか?」
結構嫌な感触だったから、あんまりやりたくないな。
相手から、余裕そうな表情が消えた。脅しとしては効いている。よしよし。
「プレート、くれるよな?」
できれば穏便にプレートを渡してほしい、が、男はだんまりを決め込んでいる。
「じゃあ、殺して体中探し回る方が早いかな?」
馬乗りから右足で男の左腕を押さえつけ、左手で顎を上に押し上げて、これでのどを突けば死ぬかな。
やりたくないから早く根を上げてくれ。
「黙ってるってことは死にたいのか。服が汚れそうだから嫌だったけど仕方ないな」
首に押し当てていたナイフを、握りなおして、切っ先を喉元に突き立てる。
「今ならまだ間に合う。プレートをもらったら、殺さないことも確約する。プレートをよこせ」
するとやっと観念したのか、口を開いた。
「上着の内ポケットだ……」
なるほど。
俺はナイフはそのまま、男の上着の内側へ手を入れる。
「あー? ポケットどこだよ……お、あった」
なんとか取り出すと、そこに書いてあった数字は……。
「217?」
うわぁ、外れだった……マジかよ。
「仕方ないか……。
じゃぁ、プレートもらっていくからな。再来年また頑張ってくれたまえ」
ほいほい離して反撃されたらたまったもんじゃないからな。
「でりゃ!」
立ち上がってすぐに掛け声とともに力いっぱい217番の股間を蹴り上げた。
どうだ、これなら取り敢えずしばらくダメになっただろ。
見てみると、ぐったりしている。顔に手を近付けると息はある。
「……本当に金玉蹴ったら気絶するんか」
ちょっと罪悪感が半端ない(というか、自分が蹴られることを想像して青ざめた)から、近くの木の根元まで引きずっておいた。道の真ん中というわけではないが、平地に転がされているよりかはいいだろう。自己満足。
それにしても217番とは……。困った。135番を見つけなければならなくなった。
くそ~~~~~、棚ぼたであと2枚空から降ってこねぇかなぁ~~~~!
続く。
(←前話) (次話→)
漫画の中より三人多い設定だったのは、このためです。試験はもうちょっとだけ続くんじゃ。