環来 020
前回までのあらすじ。
闇夜に隠れて通り魔的に襲った男からゲットしたプレートは217番で外れでした。くそ。
「呑気に振り返ってる場合じゃないんだよなぁ……」
217番を置いてきた場所から少し離れたところで。今度は木に登って一息つくことにした。
「あんまり考えないことにしてたけど、実は今日じゃない可能性も……」
声に出して言うと、更に今日じゃない気がしてきて、意気消沈。
冷静に考えて、ヒソカめっちゃいっぱいプレート持ってない? 独占よくないと思わない? ずるくない? ずるい!
はぁ……。一息つくというか溜息つくというか。いや。溜息だ。
誰か心優しい人が135番と交換してくれねーかなー。
今日はもう起きてても何もできないし、明日に響くな。この七日は気を抜けない。寝よう。
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翌々日。三日目。
誰からも襲われなかったのはいいんだが、誰にも会ってない。平和。などとのんびり過ごしている時だった。
ぐっ。
大きく引っ張られる感じがする。レオリオが襲われた、の、か?
大丈夫だ、落ち着け、すぐにクラピカが助けてくれる。俺は行かなくても大丈夫。落ち着け。無事だ。レオリオはちょっとワイルドさが増しただけだ。落ち着け。大丈夫。大丈夫。
走り出したくなる衝動を懸命に抑え、待つ。
クラピカが助けに入ったのか 、しばらくすると衝動が抑えられてきた。
なんだよ、こういうこともできるのかよ。軽傷だからかな。代わりの護衛ができたからかもしれない。
という事は、今夜か? 念のために、今日もあの谷間へ向かうか。
日が落ち、風も静か。まだ完全に暗くはない、この時間に移動してしまおう。
今日こそ棚から牡丹餅でプレートがゲットできますように。
谷間に着いて、昨日と同じ場所だと昨日のやつがリベンジに来るかもしれない、と思い、山の高いところへ移動することにした。山のてっぺんなら、ヒソカに会う確率も低かろう。
高いところの高い木の上に登った。もうすっかり自分が木登り出来るという事に慣れてしまったことに気付いて、なんか、ちょっとだけショックを受けた。この体になるまでは、木登りなんて小学生の時に低い枝に登ったくらいしかやったこと無い。デブが登れるわけねーだろ。
それにしても、体を動かすのって、結構気持ちいいもんだな。少し動いても疲れないからだろうか。
とりあえず、じっと待つ。すぐに真っ暗になって月がよく見える。まだ待つ。辺りに気配があるが、無視。狙われてるのかもな。
無心。無心。うーん、無心で待つっていうのもなかなか大変だな。やることがないだけだからな。
レオリオの無事を確認しておきたい気もするが、そうするとヒソカの狩りのタイミングと合わないから、ここは自分の欲望を優先したい。
それほどまでに忘れがたい甘美なものだったんだ。
夜とはいえ肌寒いわけでもない気候は本当にありがたい。ただただ、じっと待つ。
月が少し傾いた頃だった。
少し気配がざわついた後、声が聞こえた。近くはない。これは……レオリオだな。大当たりだ! おっと、慌てずに、もう少し耳を澄ます。クラピカの声も聞こえる。ヒソカも。ふはは、勝ち確ってやつだ。しばらく聞いていると、話が終わったのか、声が聞こえなくなった。二人とヒソカが別れたのか。少し離れたところを歩いていく音がする。こっちに向かって歩いてきたのか。ふむふむ。ゴンはヒソカを挟んで反対側にいるのだろう。
更に少し待つと。
ゾワっとする殺気が通りすぎた。念の放射を受けたような。一瞬の殺意。これは殺意だ。なるほど、これは恐い。もっと近いであろうゴンは本能的な恐怖を感じただろう。恐いが、体が熱い。当てられてるな。
などとのんびり構えていたが、数分としないうちに、待ちわびていた殺気が辺りに漂いはじめた。さっきの情念剥き出しのとは違う。うまく言えないが、とにかく違う。センサーがビンビン。ナニとは言うまい。
甘美な余韻に浸ってる場合じゃない。この殺気に紛れて誰か別なターゲットをこっちも探さねば。うう、もったいない。だがこれでイッパツ抜くとなると高度な変態だしそれを右の後ろの方で誰かが見てるわけだし高度どころか最高に変態ってことになる。流石にそんな勇気はない。
ん? 監視係がどこで見てるかなんとなく判るぞ。敏感だからか。こりゃ探しやすくていいな。
レオリオとクラピカは遠くへ行っているだろう。気配がわからない。そもそも人の気配がほとんどない。探しに行かねば。
やっと木から降りて、あたりを見回す。
よくわからん。
体の熱が褪める前に、走り出す。
近くの動物達は逃げ出したあとのようだ。
もう少し。なんだ。でかい熱量だ。人だ。もういい、出会い頭に殴るしかない。
走る足はもつれない。
息の吐き方が判る。
風を切るのがこんなに力がいるなんて。
相手が俺に気付いた、知らない顔だ。
あと少し。拳を握って。
逃げるなよ。
今だ!
「はぁー!」
当たった! あっ痛いうわ待ってゴンガラガッシャン相手と一緒に転がる。二回転半。マジか。
「ペッペッ……口に土が入った気がする、不味い」
じょりっとするなんとも渋い味に心の底からげんなりとしてしまった。
あ、そうだ、殴った相手は……ぐったりしてて動かないんだが大丈夫だろうか。
「おーい、生きてる?
返事がない、ただの屍のようだ」
クリティカルヒットの感じがあったから、もしかしたらヤバイことに……。
あ、脈はあるな。良かった。
さて、殴り飛ばして一発抜いたかのようなスッキリ感があるし、死体漁りするか……死んでないけど。
仰向けになるように転がす。
遠くで見たより若いようだが、やはり覚えがない。遠慮しなくて良さそうだ。
あちこちあるポケットを探し回るが、見当たらない。まさか、どこかに隠すタイプのやつか?!
鞄のようなものはみあたらな……ん? なんだか頭に違和感が。もしかして、ヅラ?
やべー、なんか見てはいけないもの見ている気がする。暗くて髭かと思ってたモジャモジャ、これ実はもみあげでした……。
この中にあることを祈って、そっと引っ張る。
ぐぐぐ。ぐぐ。ぐ。ずぽん。
取れた…………。
なんというか、その、本当に申し訳ない。
引っくり返して内側を探すと、135と書かれたプレートがつけてあった。すげー。痛くなかったのか。
兎に角、これで俺の必要分は揃った。
後は試験終了の合図を、果報は寝て待てスタイルで待っていればオッケーだ!
ん?
何かまだ重大なイベントが待ってたような……。
続く。
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奇襲で声を出すなど犬以下なので、皆様奇襲を掛ける際にはできるだけ物音をさせず声を出さずに行ってください。
主人公補正ってことで……。