環来 022
水平線に沈む夕日。
真っ赤になったあと、少し水色になって濃紺の夜色に染まる空。
薄く白いドット柄が、程無くしてうるさいほどの星空に変わる。
「明日も晴れそうでよかった」
声に出すと陳腐だが、独り言でも喋ってないとやってられない。満天の星空の下、ひとりぼっちなんて、孤独すぎる。
なんにせよ、まさかこんなことになるなんて、思いもしなかった。
目が覚めたら知らない場所にいて、漫画のキャラに囲まれて、なんか俺イケメンだし、元の社畜デブとは大違いの身体能力があって……ヒソカが俺を殺さないでいる。
不思議な奇跡だらけだ。
今はまだ、非日常の中だから、振り回されてついていけてないだけかもしれない。
あんまり考え込むとよくないよな。
ともかく。
夕日。きれいだったな。
星空もこっちに来る前は見たことないほどの星の数。見たことのある星座は見つからないけど。そもそも星座なんてオリオン座と北斗七星とカシオペア座くらいしかわからん。
この島は無人島なだけあって試験が始まって以来大自然の中だけど、都市部は普通に都会なんだろうなぁ。ゴンなんて通信教育で勉強してたくらいだし、結構進んだ街かもしれない。
……はぁ。
レオリオ、何してるんだろう。
……。
……ん?
「恋煩いかよ! ちげーよ!」
声に出してでも否定したかった。
これは指輪の所為であって俺の心ではない! はず!
指輪と言えば……。
この指輪、本当にどうなってんだろ。
レオリオにはめた指輪がレオリオの命の危機を察すると、俺にはまっている指輪が助けに行けと俺に指令を出す。
俺は指輪の力により念を使いながら全力で助けに行く。
あとは……そうだ、不安になる。条件がよく判らないが、離れると不安になる気がする。
会場に着いたときののエレベーター。
一次試験の階段の時。
それから、今、か。
タワーの時は何ともなかったな。何が違う? 何か……何かあるのか。
漫画に載ってないだけで何かあるかもしれない。
夜の内に探しに行くのは危ない気もするが、今すぐに動き出した方が良さそうだ。
今夜は寝れないかもしれないが仕方ない。
ここは海岸沿い。山の上から様子を見よう。
道すがら注意して見回すと、倒木があったり、小さな崖があったり、危険が多い。一人でふらふら歩いてるときは何も見てなかったも同然だ。
山の上の方まで辿り着くが、指輪は何とも言ってこない。レオリオが無事だということではあるが、そわそわ感が変わってない以上、何となく何かあるんだろう。わからん。
念が使えればわかるようになるだろうか。
おっと、今はそんなこと考えてる場合じゃない。
高い木に登って見回してみる。しかし、いくら星がうるさいとはいえ、夜の闇の中では人が居るのかどうかすら判らない。
夕日を見た海岸があそこだから、キルアと会ったのはもっと内側の……山の麓あたりか。今朝居たのは反対側の山の麓になるな。
このルートで会わなかったし、あー、あの辺にヒソカがいたし、山を越えて左回りに東側まで行こう。
これからのルートを決めたので、早速捜索……というと語弊があるが、とにかく探しに行こう。
歩き回ることルートの半分辺り。
崖上に人影だ! 二人! これは当たりだぞ!
いかん、走って近付くと不審者だ、冷静に、冷静に……って、ちょっとまっ、あいつ落ちるぞ?!
「わーーーー!」
あらんかぎりの力で駆け寄って、受け取れ! 受け取れ俺!
足に力が入る、ぐっと進む、大きく跳んで……
「よっしゃー!」
キャッチして着地!
「おいレオリオ、無事か!」
声をかけてから初めて腕の中の人物を確認したが、正しくレオリオだった。よかった。
「どこも怪我してないよな、おいレオリオしっかりしろ」
立たせて体のあちこちを検分する。
「……オレは無事なのか? なんでだ?」
レオリオは事態が読み込めないのか、呆けている。頭打ってたりしないよな?
「俺が落ちてくるところを受け止めたの。大丈夫か? 指輪見せてくれ」
体は土などで汚れてはいるがたいした怪我はないようだ。レオリオの左腕をとり薬指の指輪を見る。赤い。こんなに赤かったっけ。
俺の右薬指の指輪をそっとあてる。胸のソワソワ感が落ち着いていく。レオリオの指輪の色も落ち着いた気がする。指輪はまだ怒ってる……というか、拗ねてる気配がする。一昨日助けにいかなかったからかな。
「あー、無事で良かった」
取り敢えずハグ。ぎゅー。
「お、おい、メイ、なんだよお前どういうことだよ」
レオリオが困惑の声をあげている。そりゃそうか。
「俺もわかんないんだけど、まあ無事だったし良いのでは」
抱き締めていた手を離そうとしたときだった。
「レオリオ、と、メイ?!
あっ、いや……邪魔をしたようだな」
クラピカが崖の上から降りてきたらしいが、顔を背けながらそう言った。なんか勘違いしてるな。
「クラピカ! 無事のようでなによりだ。
再会を祝してハグを」
「遠慮する」
食い気味に拒否されてしまった。つらい。広げた腕がさみしい。
「クラピカ、俺に対して冷たくない?」
レオリオに同意を求めたが、半眼で
「今のはお前が悪いと思うぜ」
と突き放されてしまった。
つらい。
続く。
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ナイスキャッチ・オブ・ザ・イヤー。