環来 023



 第四次試験、四日目の夜。俺は指輪の警鐘により、崖から落ちるレオリオを空中キャッチするという奇跡を起こした。
 その後、三人で残りの日数をレオリオのターゲット探しをすることと決め、朝まで休むことにした。
 翌朝。
「ターゲットのアテはあるのかねレオリオくん」
 起きて早速作戦会議だ。
「ポンズっていう女だってことしか分かってねぇ。
 メイ、島を移動中に見なかったか?」
「見てないな……俺がプレートを取った奴以外は、キルアにしかあってないし、他の人影も見てない」
「この島は意外と広いからな。
 情報を整理しよう」
 クラピカが地面に島の地図を書きはじめた。
「ここがスタート地点だ。私達はおおよそこのようなルートを通ってきた」
 ガリガリと線を引く。
「レオリオと合流したのはこの辺りだった。そのあとはこのようなルートだ」
 おいクラピカ。ヒソカに会ったことは俺にはナイショかよ。まあいいけど。俺も人のことは言えないしな。
「このルートだと、俺も似たようなところしか歩いていないかもしれないなぁ」
 クラピカに習って、俺も記憶を便りに自分の歩いたルートを書き込む。
「初めは、ここに川があって、川沿いに上流へ。二日ほどこの周辺を縄張りにしていた。誰も来なかったけど。夜は島の中央辺りに出張。
 俺のターゲットはこの辺で会って、翌日、朝からうろうろして……あー、この辺でキルアに会って……こっちの端で夕日見て、それから二人に合流。
 うわ、俺の移動距離、長すぎ……?」
 ちょっと自分で書いてて引くくらい歩いてました……。でも、まぁ、夜はちゃんと寝てたし……飯もある程度はちゃんと食ってたし……。無理はしてないよな。
「ふむ、メイも私達も似たようなところを通っている。
 やはり、この空白地帯を探索するのが良いだろう」
「よっしゃ! そうと決まれば、とりあえず歩き出すか」
 クラピカの結論に気合いを入れ、俺達はレオリオのターゲット捜索を開始した。


 二日後。
 まぁそうだよね。見付からないよね。
 結構本気で探したんだけどな……。
「もうすぐ丸6日が過ぎるな。
 あと1日か」
 巨木の木の根を乗り越えながら、レオリオが言う。
 そうだ、期限は明日の昼だ。
「結局メイにあってから2日……。
 誰一人見つけられなかったな」

「うーむ」
 二日間歩きっぱなしで、さらにこの巨木による障害。二人とも息があがっている。斯く言う俺もまあまあぜえぜえだ。
「一度、スタート地点に戻ってみるか? もしかしたら、もう合格者が出ちまってるかもしれないぜ」
「いや、それはない」
 焦りのレオリオに、即座に否定するクラピカ。
「仮にいったんプレートを奪われたとしても、また奪い返すチャンスが残されているのが4次試験の特徴だ」
 そう。試験終了時刻まで、保持し続けなければならないのだ。
 クラピカの説明をひっそり聞き流しながら辺りを見回す。やはり、誰かがこっちを見ているような気配は無い。
「よし。行ってみよう」
 レオリオの決断で、スタート地点へ向かうこととした。
 道すがら気配を探るが、感じられない。わざと人気がないところを通ってるんじゃないのかと疑いたくなるくらいに。レオリオ、ラックが低いんだろうな……。
 スタート地点から少し離れたところで止まり、クラピカが望遠鏡で様子をうかがう。が、やはり簡単に見えるような所には誰もいない。気配はあるから、居ないわけではないだろうが……。
「おちあう場所と時間を決めて、3人バラバラに探した方が効率がいいな」
 最後の手段だとでも言うようにクラピカが切り出したときだった。
「4人ならもっといいでしょ」
 上から、声が降ってくる。
「ゴン!」
 び、ビックリした~。気を抜いていた訳でもないのに、急に声が降ってきたように感じたぞ。
 ゴンによれば、近くに何人か居るらしいが、ポンズは居ないらしい。まぁ穴の中だしな。
 いろいろ話した末に、ゴンに薬品の臭いをたどってもらうこととなる。犬以上の技なのでは……。
「どうだ? ゴン」
「うん! やってみる。そのためにきたんだから」
 思い詰めてるな~。レオリオは自分のことに精一杯。クラピカは気付いたけど……まぁ、なんて声かけていいかわからないよな。俺も、正解かどうかわからんが、まぁ年長者としてはなんかやらねばという気になる。オッサンかよ。
「ゴン、頼むぞ」
 ゴンの肩を抱いてポンポンと叩く。
「任せてよ!」
 元気な声に戻った。頑張れ少年よ。これ、俺は完全にオッサンだな……。
 そんな俺の悩みなど誰が知る由もなく、ゴンはクンクンしながら俺達を導く。
 ポンズの薬品の臭い? 全くわからん。土臭いのと緑臭いのだけは、湿地の時からいやと言うほど嗅がされてるけどな。そう言えば、ポンズは蜂使いなのに薬品使ってて大丈夫なのかな。
 なんとか日がくれる前に、ゴンが場所を突き止めた。
「ここか」
 大きな口が木々の下に開いている。
「どうする?」
 ああ、もう、胃が痛い。俺はどうするべきなんだ。
「もちろんオレが行く。3人はそこで待っててくれ」
 皆で一様に頷くと、レオリオは長い木の枝を拾って洞窟へ向かって歩いていった。
 入り口から覗きこみ、壁を叩いたりして様子をうかがっている。あ、ちょっと入った。あの穴は意外と深そうだな……。
 それからほどなくして、レオリオは帰ってきた。
「どうだ、何か判ったか?」
「ん……奥の方はよくわからねぇが、入り口付近に罠らしきものはないな」
 仕掛けるなら入り口にもう仕掛けてあるだろう。目的のものがあるかどうかは奥まで行かないとわからない、ってことかぁ。
「中まで入ってみる。オレがいいって言うまで、中には入るなよ」
「30分だ」
 クラピカがすぐにそう言った。
「30分経って連絡がなかったら、我々も入るぞ」
「ダメだ! その時はお前らだけでスタート地点へ戻れ!」
「そうはいかん。
 同盟を組んだ以上、見捨てるわけにはいかないからな」
「じゃあ同盟破棄だ!」
 どちらも相手を思って意地になってるんだけど、まぁ、俺も、腹をくくるか。
「オレ達が勝手に残ってるんだ! それなら文句は無いだろ?」
「チッ……勝手にしろ」
 レオリオが折れて踵を返す。
「待てよレオリオ。俺は、ついていく」
「ダメだって言ってるだろ! オレ一人で行く。お前ももうプレートは集まってるだろうが」
「俺が勝手に着いていくんだ、それならいいんだよな?
 折角四人なんだ、別れるなら同数の方が良い」
 レオリオは不服そうだが、カバンをゴンとクラピカに預けて歩き出した。
「俺のも頼む」
 俺も二人にカバンを託す。神妙な顔で頷き、送り出してくれた。
 おーいレオリオ待ってくれー。
 あ、さっきレオリオが持ってた枝、拾っていこうっと。
 レオリオー、待ってくれー。


続く。




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連載の初めのころは一緒に入るとは思ってなかったので、自分で書いている話ですら一寸先はどうなってるかわからないものですね。