環来 024



 ポンズの待つ洞穴へ入るレオリオに、無理矢理ついていくことにした。ゴンとクラピカの勝手に待ってる論に対して、勝手に着いていく論。無茶苦茶だ。
 それでも、レオリオがあんなことになるのを分かっていて外で待つなど無理だ。俺がレオリオは無事に助かると知っていても、指輪には関係ない。それは湿原でわかっている。
 後から駆け込むくらいなら、はじめから傍にいた方が、まだレオリオを守れる可能性があるはずだ。
 無言で進む洞穴の中は、外の空気よりも随分ひんやりして、しっとりしていた。陽の光が入らないならこんなもんか。
 静かに辺りの気配に気を配りながら進む。
 しかし予想に反して長くは無かった。奥が深そうに見えたのは、道が緩やかな下り且つカーブして入り口から奥が見えなかったからだった。入口からの光がなくなる、と思ったところで奥の方に新たな光源を見つけた。
 少しホールのようになっているのが中に入らずともわかった。
 中には人間が座っている。男と、女。
 死んだ蛇使いと、目当てのポンズだ。
「まさか……二人で引きこもってるとはな」
 レオリオが思わずそう漏らすと、ポンズがこっちを向いた。
「まさか、二人も入ってくるとは思わなかったわ」
 冷静な声だった。いや、新しく人が入ってきたところで出られるわけではないという諦観の声かもしれない。
「こんなかわいこちゃんと二人きりで引きこもって何やってんだよ、オッサン」
 レオリオが男に話しかけるが、返事がない。
「おい、聞いてるのかよ」
 レオリオがいつもの輩のような態度でオラオラと近付いて行こうとするので、慌てて止める。
「待てレオリオ! 様子が変だ。迂闊に近付くな」
「あぁ? なんだよメイ、何が変だって……ん? なんだこの手は」
 よく見ると、離れているにも関わらず、男の手の甲がボコボコに腫れ上がっていることがわかった。
「その手……何かの毒だ。恐らく、もう死んでいる」
「ご明察。彼はもう死んでいるわ」
 すごいだろ! カンニングだけどな!
「では何故君がこの洞窟に引きこもってるのか、っていう話になるよな?」
「どういうことだ、メイ
 レオリオは判ってないようだ。
「考えてみろよ。いくらあと半日で試験終了となるとはいえ、俺は死体と一緒に居たくないし、しかも死体はオッサンだぜ?
 ターゲットかどうかはさておき、殺したならさっさとプレートを奪って洞窟から出るよ、俺ならね」
 なるほど……と納得するレオリオとは対照的に、ポンズは不満そうだ。
「私だって好きで洞窟に居るわけじゃないわよ。
 でも、出れないの。
 あの蛇使いバーボンの罠の所為でね」
「蛇使いの……罠!」
 くそっ……。判っていても、顔が歪む。
「出ようと入り口に近付くと大量の蛇が襲ってくるわ。入った者を出さない為にね」
 言われて入り口へと振り向くと、急にザワザワと音がして、数多のうねる影が出てくる。
「入ったら、出られない…………まずい!」
 言うが早いかレオリオが入り口へ駆け寄る!
「おい、待てっ」
「クラピカ! ゴン! 来るな!! ヘビだ!!」
「レオリオ!!!!」
 腕を引っ張り俺の体で庇うが、レオリオは既に何匹かに噛まれたあとのようだ。指輪が、熱い。
 俺の背中に無数の激痛が走るが、それより先にレオリオに噛みついている蛇を叩き落とす! くそ! 蛇が多すぎる!
「レオリオっ……生きてるかっ……くそ、くそっ」
 木の枝を振るって蛇を叩き殺すが、枝はすぐに折れて使い物にならなくなった。仕方なくじりじりと下がると、次第に蛇の攻撃が止んだ。
 体が痛い、重い、熱い……意識が朦朧とする……。
 膝をつくと、もう耐えきれず、倒れてしまった。
 洞窟内を走ってくる音がする……
 指輪が熱い……
 ゴン……クラピカ…………
 レオ……リオ…………………………


続く。




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