環来 025



 声が聞こえる……
 来た、の、か……二人が…………

 俺は朦朧とする意識をなんとか表に留め、目を開けた。
「レオリオ……ぶじか……」
メイ?!」
 俺の声を聞き取ったのはクラピカだった。
「気が付いたのか、メイ! レオリオは無事だ。お前の方が重症なのだぞ、他人の心配をしている場合か」
 クラピカが俺のこと心配して怒ってる。ウケる。
「何をにやにやしている! もう少し安静にしていろ、洞窟からはゴンが運び出してくれたから安心するといい」
「ありがと……」
 辺りは暗い……赤い光も、ある。焚き火かな……。
 起き上がる……のは、無理だった。体がだるい。
「無理をするな……朝まで休めば熱も下がるはずだ」
「ん……」
 俺は何か言おうとしたが、頭がうまく働かないまま、いつの間にかまた眠りについていた。




「復活!」
 目が覚めると、体のだるさも特になく、頭はしゃっきりしていた。復活!
「おっ、目が覚めたのか、メイ
 声を掛けてきたのはレオリオだった。顔色も良さそうで、一安心だ。
「レオリオ! 無事みたいで安心したぞ」
「おいおい、そりゃこっちのセリフだぜ! メイのおかげで、俺は軽症だった」
「だからって、俺がレオリオを心配しなくていい理由にはならないだろ! 心配させろよ、俺にもさ」
 まぁ半分は指輪の所為なんだけど。
 辺りは明るくなったばかりのようだ。朝特有の新鮮さで満ちている。
 ゴンとクラピカの姿が見えない。
「そういえば、ゴンとクラピカは? 居ないみたいだけど……」
「あいつらは朝メシ用に、魚を釣りにいったぜ。川は向こうの方にあるんだが、少し遠くてな」
「そうなのか。じゃあ大人しく待ってようかな」
 寝ていた間に着いた土や草を払い落として、軽くストレッチ。さてやることなくなったぞ。
 レオリオの方を見ると、もっと前からやることがなかったようで、焚き火に小枝を入れたり出したりして遊んでいた。
「小枝って意外と火が点かないんだな」
「ん? ああ、これか。この枝は折っちまったやつなんだよ」
「あー、そういうことか。よっこいしょ」
 レオリオの隣に腰を下ろす。
「レオリオさぁ……ハンター試験合格した後って、予定とかたててるのか?」
「どうしたんだ藪から棒に」
「いやさ、俺、たくさんレオリオに助けられてるわりにはレオリオのこと知らないよな、と思って」
 よく知ってるんだけど、考えてみると肝心の場面に立ち会ってない。金カネ言ってるところしか知らないことになってるはずだ。
「ん? そういやあんまりゆっくり話すことも無かったな。
 あー、俺はよ、実は医者になりたくてな。その為に故郷で試験勉強を始める予定だ」
 レオリオは焚き火を見つめながらそう言い切り、へへ、なんて笑った。
「凄いな……」
 もう覚悟を決めてるって顔だ。
「俺は、どうしたらいいのか判らない……。
 ハンター試験を受けたのはレオリオと離れたくなかったからだし、文字も読めない。帰るところもない」
メイ……。やっぱり、記憶も戻らないままか?」
 記憶? あっ、やべ。そういう設定だった。
「全然。気配すらない。まぁでも記憶に関してはもう諦めてるというか、なんというか」
 失ってないものは戻らないというか……。ははは。
「お前のそういう、後ろ向きじゃないというか、なんかちゃんと前向いてるところ、すごいと思うぜ。
 それによ、まだ合格したって訳じゃないんだ。狸の皮算用にならないように気を引き締めねーとな」
「それもそうだな! 腹減ったし早く帰ってこないかなぁ~」
 なんか元気付けられちゃったな。

 ほどなくして帰ってきたゴンとクラピカによって提供された朝食により、すり減っていた体力を回復させた後、俺達四人は開始地点近くの茂みに潜んで待つことにした。
 皆、残りわずかな時間を固唾を飲んで見守っている。この近くで待っているということは、点数を集められたということだろう。だが誰も油断していない。意図的に合格点以上のプレートを集められるからだ。
 待つ。
 待つ。
 待つ。
 ……まだか。
 やることがないのに緊張して待ってなければならない、というのは、たいへん疲れる。もう緊張するのは止めよう。
 そう思い始めた矢先に──
 ボオオオオーーーーーーー
 大きな汽笛の音だ! やったー終わったぞー!
 プレートを集めきった者達があちこちから出てくる。ひの、ふの、みの、よの……えーっと、俺以外は漫画の通りみたいだな。
 いやぁ、なんていうか、ここまで来ちゃったんだ…………。


続く。




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