環来 026
第四次試験の終了を報せる船の警笛とアナウンスが響く中、ハンター協会の飛行船がやってきた。
スタート地点にピタリと着地する。あれよあれよと飛行船へと乗せられて、グッバイ名も知らぬ小さな島よ……。
飛行船の中では第四次試験の合格と、最終試験の会場までこのまま移送されること、食事が配給されることが説明された。
「なんとまあ、以前飛行船に乗せて貰ったときと待遇が違うもんですなぁ」
食事のために食堂へ移動すると、豪華とは言わないものの、上質なプレートランチが待っていた。
「あー、文明の味がする。最高」
「なんだソレ」
キルアの不審そうな声。
「キルアくん、ここまでの試験の道程を振り返ってごらんよ。湿地、森林、石の塔、無人島。
それらに対してこの、調味料、加熱方法、食器! もうね、文明最高としか言いようがない!」
贅沢を言うとピザや唐揚げやラーメンを食べたい。今なら無限に食べられそうな気がするっ。
しかし俺の感動と熱弁はキルアには届かなかったらしい。ふーん、の一言で済まされてしまった。
「文明の味かどうかは判らないが、人心地ついたのは確かだな」
「クラピカ! わかってくれるか~」
「おいメイ、味については賛同者ゼロだぞ」
「えっ、ウソ」
レオリオの指摘が信じられずゴンを見遣ると、はははと苦笑された。四面楚歌。
「いいもん、美味しいことには変わりないもん」
「素直にはじめからそう表現していれば、賛同もしやすかったのだが」
「いやでも文明の味がですね」
「はいはい」
文明的な昼食を終えた後、特にアナウンスもなく、ゴンは景色を見に行って、そのうちクラピカもどっか行って、俺は満腹と一晩熱で浮かされた後遺症でたいへん眠く、食事した席でうとうととしていた。
うとうとし出してどのくらいたったかは判らない。
『えーーー、これより会長が面談を行います』
急に鳴り響くアナウンスにビックリして目が覚めてしまった。
「なんだなんだ」
「起きたか、メイ」
「起きたよ、レオリオ……なに、二階の部屋?」
44番、とアナウンスされて、部屋のすみに居たヒソカが立ち上がった。なるほど、一人づつ呼ばれていくわけだ。そういえばそんなだった気がする。
受験番号順に呼ばれるんだろうなぁ。俺は一番最後かぁ。
一人、また一人と呼ばれ、帰ってこない。ただの面接じゃなかったっけ……。
食堂はがらんとしてしまった。残っているのは俺とレオリオだけだ。
『403番の方、お越しください』
「俺の番だな」
アナウンスを聞いて、レオリオが立ち上がった。
「行ってらっしゃい」
「おう」
レオリオは緊張した声で短く答え、食堂を出ていった。
何を聞かれるんだったかな。志望動機が聞かれた気がする。レオリオ、今度はまっすぐ答えるんだろうなぁ。俺は……うーん、俺は……。俺には志望動機が無いんだよなぁ。ってことを正直に話すしかないか。
レオリオが帰ってこないまま、404、405とアナウンスが呼び、ついに──
『406番の方、お越しください』
呼ばれてしまった。
立ち上がって、階段を目指す。どこか判らないが、食堂前の道はメインの廊下みたいだからすぐにあるはずだ。
少し歩いたところで、階段はすぐに見つかった。
部屋は……だ、第1応接室、だったな……。どこだ。
落ち着け、幸いにも階段に案内図がある。応接室ってことはそんなに広くないだろうし、それに第1ってことは数字がどこかに……ここか! ここであってくれ!
ソレっぽい部屋を目指す。ノックする。頼むぞ……
『うむ。入りなさい』
よっしゃ正解だ!
「失礼します」
扉を開けて入ると、ネテロ会長が座っていた。和風の装飾品を従えて。
似合う……けど、なんだろね、会長って日本人なのかな……。
「あー、えっと、406番のメイです。よろしくお願いします」
座れと催促され、一段高い座敷に靴を脱いで上がる。分厚い座布団は、たいへん心地よい弾力と柔らかさだ。高級品なんだろうなあ。
「まず、なぜハンターになりたいのかな?」
おお。本当に全員に聞いてるのか。
「実は試験を受ける直前までの記憶がなくて……助けてくれたレオリオが受けるというので、頼み込んでついてきたんです。看板に何が書いてあるのかも判らない状態で、離れたら生きていけないと思って。
それに、なにか資格があればご飯が食べれるかな、と」
なるほど、とか言ってるけど、聞いてんのか聞いてないのかわかんねーなこのジジイ。
「では、おぬし以外の9人のうち、一番注目しているのは?」
「注目、は。まあ、44番と、あと体中になんか刺してるひとですかね。見た目が怖すぎでしょ、釘だか針だか知らないけど……」
そういえば他の受験者の番号なんて全然覚えてないわ……。みんなはよく覚えているなぁ。
「ふむ……では、 9人のうちで戦いたくないのは?」
「レオリオとは、戦えない。
でも、レオリオを守るためなら誰とだって戦います」
そういう試験じゃないことはわかってるけど。こう答えるしかない。
「うむ、ご苦労じゃった。さがってよいぞ」
「はい」
部屋の外に出ると、マーメンが待っていた。
「お疲れ様でした。最終試験会場まで時間がかかりますので、受験者の皆さんに個室が与えられます。
これが部屋の鍵です」
長いプラスチックの棒が繋がれている、普通の鍵だった。
なるほど、合点がいった。面接が終わっても誰も帰ってこないのは、こういうことだったか。
「夕食は18:30から、食堂で提供されます。それまでは自室待機となっております。
部屋の中の冷蔵庫のドリンクもご自由にお飲みください。
ではごゆっくり、お休みください」
連絡事項を伝えたマーメンは、応接室の奥の方へ向かって消えていった。
さーて、部屋を探すかぁ。
続く。
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