環来 028
おいおい、飛行船の中なのに何でこんなに設備が整っているんだ。
レオリオに誘われてやってきたトレーニングルームとやらは、いろいろなマシンがそろっている本格的なジムだった。すでに何人かウェイトトレーニングをしているようだ。勤勉だなー。
そういえば漫画の中でも会長がゴンとキルア相手にゲームするホールが有るくらいだし、まぁトレーニングルームぐらい有るよな。そうだよな。
筋トレの類は使い方を知らないし、とりあえず走るやつをやろう。
「レオリオ、これどれがスタートボタン?」
「ん? この赤いボタンだな。速さがこのボタンで上げ下げできる。止める時はもう一度赤いボタンを押すんだそーだ」
「おお、なるほどね。ぽちっとな」
するとニュニュニュと足元が動き始める。どれくらいの速さがいいのかわからん。適当に上げていくか……。
結局20km/hまで上げた。これくらいがちょうどいいようだ。この体はバケモノか。ちょっと遅い原付きみたいなもんだろ。いや、原付きは言い過ぎか。
隣のマシンで走っているレオリオを見遣ると平気そうな顔をしていたので、話しかけることにした。
「レオリオ、喋っても平気か?」
「ん? まぁ、な。どうしたんだよ、もう飽きたか?」
思っていた以上に平気な声で返ってきた。
「飽きたかどうかでいえば飽きてきたけどさ。ちょっと聞きたいことがあって」
「メイ、お前は俺に聞きたいことばっかりだな」
「そうだっけ。じゃあ逆にレオリオからの質問を大募集」
「なんだそりゃ。まぁ、俺もお前に聞きたいことがあるんだけどよ」
「えっ、マジで? まさか本当に応募があるとは」
「まぁ……実はな。お前の嵌めた指輪のことだよ」
わおー。そっちからその話が出ますか。
「悪かったって。まさか外れないとは思わなかったんだよ」
「いや、その話じゃなくて。
お前、これを感謝の気持ちとか言って俺に嵌めたけれどもよ。
俺にはやっぱ、貰いすぎだと思うんだよ」
「何言ってるんだレオリオ。俺はまだ足りないと思っているくらいなんだけど」
「覚えてるか? お前、この指輪を買い取りしてもらえなかった時にホッとしてたじゃねぇか。
だからよ、この指輪はやっぱりお前のもんだと思うんだ」
「レオリオ……」
そこまで俺のことを考えてくれているとは知らなかった……というか、指輪を売ろうとしていたことすら忘れていたぞ。
「感動的なセリフの後で悪いけど、どうやったら指輪が外れるのかわからないんだよね」
「お前なぁ! そりゃそうだけどよぉ……コレばっかりはどうしたらいいのか見当がつかねぇ」
レオリオがガクリと肩を落とした。
「まぁ、外れる云々の前に、文字の読めない俺が今後どうやって生きていくのかの方が重大案件のような気がする」
「メイよぉ……そればっかりはお前の心持ち次第だと思うぜ。その速さで喋りながら走って息も切らないっていうのは、なんか使えるんじゃないか?」
「? レオリオも同じような速さじゃないのか?」
「俺は13km/hだこの野郎喧嘩売ってんのか!」
「ご、ごめん」
一時間ほど走り一息ついたところで昼食の時間となり、ウキウキと食堂へ向かう。運動して鬱々としていた気分も発散されたし、腹は健康的に空いているし、考えていたことは何も解決していないことを除けばとてもおいしい昼食が食べられそうだ。はっはっは。メシは美味いに限る。
食堂で食事がもらえる時間は限られているから、自然と全受験者が集まる形となる。俺たち五人の集団以外は、単独行動派ばかりのようだ。
メインのカツレツに喜びつつ、席に着きながら周りを観察してみると、あの髭の武闘家以外はかなり若い年齢に偏っている。ヒソカやイルミの正確な年齢に特に興味ないが、俺を加えたこの三人が年上グループで、ゴン、キルアが最年少、残りも十代だろう。ほかの年の合格者の年齢ってどんなもんなんだろうな。すごいオッサンとかが合格する年もあるんだろうか。あるだろうなぁ、そういうことも。最年長合格者って何歳なんだろう。
「やべぇ、このカツレツめっちゃ美味しい」
思わず声に出てしまった。いや、まじでこれは三食食べたい。
「さっき運動したからじゃねえか? 体動かすと気持ちいいしな」
レオリオもカツレツに夢中になりながら、そう返してきた。
「運動?」
クラピカが訝しんだ声で聞き返してきた。なんだ?
「レオリオ、メイ……お前たち、仲がいいとは思っていたが、あまりそういうことはゴンとキルアの前で」
「クラピカ! トレーニングルームが! あってな! ちょっと走ってきたんだよ!」
そういう勘違いかぁぁぁあああ?! 時々妙な拗らせ方をしてないかクラピカ?!
「そ、そうか。いや、すまなかった。トレーニングルームがあるとは初耳だ。後で私も行ってみたい」
本当にわかっているのか、不安な目の泳ぎをしている。
「マシンの使い方とかわからないし、教えてくれよ。クラピカは詳しい?」
「私も詳しくは…」
「しゃーねーな、俺が教えてやるよ」
「レオリオ先生、是非ともご教授くだされ~」
続く。
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