環来 029
最終試験会場へと向かう飛行船の中、わいのわいのと筋トレしたり外を見て流れる景色に目を奪われたり三度の食事に舌鼓をうったりと過ごしていると、あっという間だった。
これから着陸態勢に入ります、とアナウンスがあり、五人で集まっていた食堂でそのまま着陸を待つことにした。船体がゆっくりと降下していくのがわかる。
すごく、すごく気持ち悪い……。
元々の俺はかなり乗り物に酔う方だった。
船に乗るときは用心のために酔い止めを飲んでいた。
筋肉すげーとか走れる速さすげーとかで、ちょっと調子に乗っていたようだ。
っていうかこんなところだけ引き継がなくても……もしかして、この体も元々乗り物酔いしていたんだろうか。ピンポイントでか。マジかよ……。
「おい、大丈夫か? 今からでも酔い止めを飲んだ方がいいんじゃないか?」
レオリオが心配そうに声をかけてくれているが、いま、それどころではない。
「ちじょうに……おりれば……なんとかなる……から…………ウッ」
「悪かった、メイ。安静にしていてくれ、必要なものがあったら貰ってくるから声かけてくれ」
レオリオも済まなそうな顔をしてとなりの椅子に深く座りなおした。
飛行船ってこんなラフな状態で上がったり下がったりして良いんだ……飛行機だと椅子に座って荷物は足元に置いてシートベルト、と厳重なのにな。
そういえば何回か乗ったけど離陸の時もなんもしなかったし、この世界はそういう世界なのか?
いろんな考え事をして気を紛らわせていないと、意識のすべてが「気持ち悪い」「気絶したい」「飛び降りた方がましなのでは?」の三点に要約されてしまう。ほぼされつつある。だめだ、もう死にそうなほど気持ち悪い。今後一生陸路しか移動したくない。どこでもドアが早く開発されるべき。もうだめだ。あー、ほかに考えることは、とくにない、あーもーだめだー。
という地獄のような時間をなんとかやり過ごし、地上についた。
飛行船の中の人工的に乾いた空気とは違う、フレッシュな空気を感じて、正気に戻った。
着陸で力を使い果たし、ぐったりしている。少し休めば大丈夫になるだろう。どうせ俺の試合なんて後ろの方だろうし、不戦勝になる可能性だって結構高いんじゃないだろうか。十分に休めるだろう。
降りたところは、ちょっとインドか中東の雰囲気のある建物の中の屋上、ヘリポートだ。
こちらへどうぞ、と案内されて広いエレベータへ乗り込む。加速度をさほど感じない上質なエレベータだ。ありがたい……。
エレベータから降りると、幅の広い廊下の奥に観音開きの扉が待ち構えていた。
よく磨かれた石造りの床。高い天井。布で隠された大きなボード。
ネテロ会長が説明を始める。聞いてるふりをしておこう。まだ気持ち悪くて、驚いたりなんだり、そんな余裕はない。
キルア、いいぞ、もっとごねろ。俺が回復する時間をもっと稼いでくれ。そうだ、俺の対戦タイミングは……。
「ば、ばかじゃないの……」
思わず声が漏れた。なんであんな場所に406って書いてあるんだ……。
俺の受験番号、406。それは、191と404の間、クラピカの後にヒソカと対戦する場所に書かれている!
「いやいや……ない、それはない……どうしてそんなところに……」
このタイミングだとまだキルアが失格になってなくて試合をしなければならないところじゃないか。しかも相手はヒソカだって? やってられないよ! どうすればいいんだ、試合と同時に「まいった」って言えばヒソカも見逃してくれるだろうか。原作と話が変わってしまうがその辺は俺の保身のためにも発声練習とかしておいた方がいい気がする。マジで。
ああ、そんなことを考えている間にゴンとハンゾーの試合がはじまってしまった。
マジかー。最終試験で試合するなんて考えてもみなかった……。
続く。
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