環来 032
そばで激論を繰り広げている声をBGMに寝てたら、ついに誰かに肩を叩かれた。
「起きてください、406番。いつまで寝てるんですか」
「…………寝てたら、失格?」
まめんちゅだった。ええと、名前なんだったっけ。
「いえ、失格にはならないですけど。
これからライセンスカードの使い方説明しますから、ちゃんと聞いててください」
「あ、はーい」
良心的な豆だなぁ。
よだれを拭って目を擦る。辺りを見回すと、ゴンも座ってた。あ、これ本当に終わりのやつだ。
説明は、規約や細かい使い方だった。起こしてもらってよかったよ、規約の書かれた冊子ももらったけど、文字ぎっちりだし、そもそも読めないし、後から自分で読むのは無理だったな。
説明会が終わって、ハンターとして認定されて。
「では解散!!」
「ちょっと、レオリオ、指輪」
部屋を出されてゴンとクラピカと歩き出すレオリオを追いかける。
「あ、悪い、忘れてた。どうしたらいいんだ?」
「まぁ、何となくわかるから、手を出してくれ」
出された左手をとり、俺の右手の指輪を当てる。
ピカッと光った。握手したときと同じだ。
「これで指輪がとれるはずだ、レオリオ」
レオリオが早速自分で指輪に手をかける。するとやはり、するすると指輪が外れた。
「本当に外れたぜ……おいメイ、これはいったい」
「たぶん、期間も限定なんだよ。この赤い指輪をはめた相手を強力に守る事が出来るようになる代わりに、相手も了承しないとダメだし、傍から離れちゃダメだし、期間限定」
これでほぼ条件が確定、と思っていいのだろうか。副作用とかがありそうで怖い。
「強力に?」
「そう、強力に。ハンター試験中ははぐれる度にイライラするし大怪我しようものなら木をなぎ倒してでもまっすぐ走っていかされるし、崖に落ちそうなの察知して夜中に探しにいったりさ。大変だったよ」
「そうだったのか……」
「でも、レオリオについて来たお陰で、記憶がなくても何とかやっていけることになったし。指輪も外れたし。万事オッケーだよな!」
「文字が読めなくて万事良しとは思えねぇがな!」
あはは、と二人で笑って、ここまでが一つのコントのようなものだ。
「ゴンは芯が強い。だけどまだ子供だ。俺は一緒にいけないけど、皆で支えてやってよ」
笑顔で言えただろうか。
「おいおい、今生の別れみたいな言い方やめろよ」
「別れかもしれないだろ。俺はヒソカに指輪を渡す約束をしてる。勿論ただ渡すだけにはいかない。誰かに嵌めておかないと、嫌な予感がするから、ヒソカにも嵌めてもらうつもりだ。これから先、どうなるかは、ヒソカ次第」
殺されはしないだろうと高を括っているが。
「キルアにも宜しく言っておいて。あと、お兄さんの髪の毛いつか触らせてくださいって」
「無理難題を付け加えてんじゃねーよ!」
わーぎゃー言ってたら、ゴンが振り返ってきた。
「二人とも立ち止まって、どうしたの?」
そうだ、ゴンは居なかったから知らないだろうし、クラピカも上の空だったな。
「ゴン、クラピカ。俺は一緒に行けないんだ」
「えっ? どういうこと?」
「ゴンが吹っ飛ばされて気絶している間、ヒソカとの約束が出来ちゃって。ヒソカに着いていかなくちゃならない。お仕事みたいなものだ」
ゴンは意味がよくわからないというような顔をしている。クラピカは今気付いて、足を止めてこっちを見ている。
「試験の間、皆と居られて良かったよ。ちょっと早いけど、俺はここでお別れなんだ。
だからさ、キルアに会えたら宜しく言っておいて。三人なら会えるから、頑張って」
「どうしても、なんだね」
ゴンは寂しそうだ。
「ごめんな。ヒソカを見失うと困るし、もう行くよ。
みんな、ありがとな。また会おう」
会えたらいいな、出来れば平穏なタイミングで。
「またね!」
「字ぐらい読めるようになれよ」
クラピカは黙って軽く頭を下げた。視線を合わせて、手を振った。……眉をひそめられた。
俺は改めて、三人に別れを告げ、ヒソカを追うことにした。
あー、さみしいな、確かに。
だけど俺には余韻に浸る余裕はない。ヒソカはどこに行ったんだ。
続く。
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