環覚 012
骨折を早く治したい一心で、俺は無い知恵を絞って考える。骨を作るにはカルシウム、カルシウムにはビタミンD、ビタミンDには日光浴だな。
短絡的とも思える短い連想ゲームの結果、ベッドルームの窓辺に陣取って、そこで瞑想をすることにした。この部屋は午前中に日が当たるので、日光浴に向いている。
ゆっくり呼吸を整える。
体の内外にあるエネルギー(妄想)を左手に集め(妄想)、折れた骨へ注ぎ込む(妄想)。
こういうのはイマジネーションが大切だというのは、古今東西のファンタジーに書かれている。俺調べ。
骨折に効いているのかどうか知らないが、やってみると意外と心地良いことがわかった。半年くらいはここにいるのだと思うと、ちょっとしたホームができた感じがして、安心感というかなんというか、やっと落ち着いたという気持ちだ。
そんな感じで午前中に小1時間ほど日光に当たりながら瞑想をし、その後は特徴のない日々を過ごす。
そんなサイクルの日々を過ごしていると、数日でゴンとキルアが200階に上がってきてしまった。早すぎる。もっとゆっくりお金を稼いだ方がいいのでは。
テレビがワーワーと盛り上げながら、子供が二人も同時に190階をクリアしたことを放送している。
「ふぅん……」
ヒソカはそれだけを口から漏らし、ソファから立ち上がった。
「二人のところに行くんですか?」
「片方はオマケだけどネ。
このまま潰されでもしたら、つまらないだろう?」
そう言って、少しウキウキしてそうな足取りで出掛けていった。
いってらっしゃ〜い、と言った声が届いたかどうかはわからない。指輪が何も言わないのは、ヒソカと多少は信頼関係ができたということだろうか? まぁ、ちょっと子供を脅しに行くだけだし、何も起こらないのがわかってるというのもあるかも。この塔の中でヒソカにちょっかい出すような奴はいない。
いや、子供を脅すってなんだよ。充分危険人物なんだよな。常識が歪みつつある……。
日付が変わってしばらくすると、ニコニコ&ギラギラしたヒソカが帰ってきた。どう見てもホラー映画のキラー役で、正直ちょっと怖い。
「おかえりなさい」
「うん、ただいま」
語尾にハートマークが付いているであろう上機嫌な声。ヒソカに指輪をはめてから一番のご機嫌状態だと思う。
「うまく行ったんですか?」
「もちろん。青い果実が熟していく様は最高だね。まぁ、ボクと戦うことになるのは当分先の事だろうけど。楽しみだなァ……」
ヒソカはそう言いながらバスルームへ向かっていった。
怖すぎるので、俺は先に寝ることにした。
おやすみなさい。
続く。
(←前話) (次話→)
テレビって文字が読めなくても話が分かるので、メイのいい娯楽となっています。