環覚 013
ゴン達の件があってから、数日後のこと。
「骨は綺麗にくっついてるみたいだね。もう普通の日常生活は左腕を使っても大丈夫だよ。
とは言っても使っていない期間は長いし、筋力は落ちてるだろうから、くれぐれも無茶をすぐにはしないようにね」
医者にそう言われたという話をしたら、再びニコニコしたヒソカにそのまま塔一階の受付まで連行された。
ザワザワする関係者。まだヒソカのことを知らなさそうな受付に並んでいる人々もヒソカを見てはザワザワしている。まぁ、ヒソカはどう見ても異質だもんな。黙ってれば美人だし、服は奇抜すぎるし……。
「もう少しお忍びムードとかないんですか」
「なんでボクがこそこそしなきゃいけないんだい? 別にここで正体を隠したりなんてしてないよ」
「あんたが良くても俺が良くない……」
周りから奇異な目で見られているヒソカの隣にいる俺も、方々から「なんだアイツは」のような目で見られている。
「ほら、受付の紙はこっちだよ。書くのを手伝ってあげるから」
「はいはい、頼りにしてますからね。よろしくお願いしますよ」
受付の列の横には記入のための机がいくつか並んでいる。少し奥の机に陣取ると、紙と筆記用具を取る。
ヒソカによると、記入項目は以下の通り。
・名前
・生年月日
・闘技場経験(あり/なし)
・格闘技歴(単位は年)
・格闘スタイル
「生年月日ぃ? 今年って何年ですか」
それから逆算して適当な年を書いておくしかない。大体20くらい引いておけばいいのだ。
「今年? たしか1999年だったかな」
「ふむふむ……えーっと、19……79年、ね」
計算の都合とはいえ、現実よりだいぶ年上になってしまったな。変な感じ。とりあえず先に数字を入れて、後から文字をヒソカに教えてもらうとするか。
「戦って勝てば ばお金もらえるけど、負けても階が落ちるくらいでペナルティなんてないんすよね? のんびり勝ったり負けたりをしてファイトマネーを稼ぎたいな……」
「ククク……キミ、本当に格闘経験が無いんだろう? それなのに怪我もせず思った通りに試合運びができると思ってるわけだ。なかなかの自信家だね、メイ」
「うっ、確かに。この間もボコボコにされたんだった……」
骨折も治って、完全に喉元過ぎて忘れ去っていた。思い出して、腕が痛い気がしてくる。
「分かったならいいけど。あの時は相手は多人数だったから、アレで済んだなら素人にしてはましな方だと思うけどね。
ほら、早く続きを書きなよ」
謎のフォローを入れられつつ催促されて、俺は紙を埋める作業に戻る。
「えーっと、格闘経験はゼロ、スタイルは特になし……」
ヒソカに手本を書いてもらい、それを見ながら書き写す。俺から見てもびっくりするほど下手くそな出来だが、ヒソカに「まぁ読める」という判定をもらったので、意気揚々と提出だ!
「じゃあ、ボクは観覧席から見てるからね」
受け付けが無事に終わると、ヒソカが子供について来た親みたいなことを言い出した。
「え゛っ……み、見るんですか。見なくても良いのでは。ヒソカさんは部屋に戻ってても良いんですよ、俺はちゃんと一人でも部屋まで帰れますし」
帰ってくれ、頼む! という俺の胸中祈願も虚しく、ヒソカが帰る気配はない。
「キミのデビュー戦を楽しみにしてたんだ。生で観戦しなくちゃ勿体無いだろう?」
なんでそんなにウキウキしてるんだ。あんたは子供の授業参観に来る親か。
「え〜、は、恥ずかしい……」
どんな戦いになるか知らないけど醜態を晒すことになるだろうと思っているので、知り合いに見られているとかいうのは恥ずかしすぎるんだが……。しかも、何故かは知らないがヒソカに不当に高く買われている気がするし。
「じゃ、がんばってね」
それだけ言うと、ヒソカは手をひらひらと振って何処かへ消えていった。何処かっていうか、あの口振りなら本当に観覧席へ行くのだろう。
すり鉢状のステージの底にはいくつもリングがある。それぞれが今日受付をした奴らだと思うと、ちょっと盛況すぎる気がする。そもそもファイトマネーってどこから出てるんだろう。
そんなことをぼんやりと考えながら歩いていると、受付からもらった紙に書かれている番号を呼ぶ声が聞こえた。熱気あふれる一階の闘技場の中でも良く聞こえるのは感心だが、呼び出し方がザルな気がする。
「Lリングは……ここか」
辿り着いたリングで、受付に渡された紙を審判員に渡す。相手はまだ来ていないみたいだ。腰よりも少し高いところにあるリングへ上がると、意外と高く感じる。落ちたら痛そうだ。
やってきた相手は、いかにも腕っぷしに自信がありそうな男だった。
「なんだぁ、キレーなにーちゃんだな。初戦の勝ちはいただきだぜ」
「テンプレ発言どうも。こういうの初めてだから、よろしくね」
ふん、と鼻で笑われてしまった。話しかけてきたのそっちだろ!
続く。
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環来001が2011年で、そこで25歳くらいを考えていたので、えーっと……
危ない! 作品中の年齢を現実の時間軸を同じように計算してはいけない!